独自に作成したマウスTrps1遺伝子上流配列にCreリコンビナーゼをつないだトランスジェニックマウスのCre活性を個体レベルで詳細に検討した。Trps1-Creマウスをレポーターマウスと交配し、胎生9.0日から生後2週目までの全身のCre活性を可視化した。その結果、中枢神経、関節軟骨、心臓、真皮、毛包に比較的強いCre活性を見出した。肺や軟骨成長板にもTrps1遺伝子の発現が報告されているが、今回のマウスではCre活性は見られなかった。Tricho-rhino-phalangeal症候群(TRPS)では毛包、軟骨成長板、関節軟骨、そして最近では高い頻度で先天性の心奇形を有することが報告されている。TRPSで見られる心奇形はバラエティに富むという特徴があり、僧帽弁閉鎖不全症、左心低形成、心房・心室中隔欠損など多岐にわたる。マウス胎仔心臓原基におけるTrps1遺伝子の発現を検討すると、その発現部位は極めて限局しており心内膜隆起に発現することが分かった。一方、Trps1-Creの活性を有する細胞は心房壁、すべての弁、そして寝室においては特に心室中隔などTrps1遺伝子発現部位と比較して広い範囲に認められた。このことは、Trps1を発現する、もしくは発現していた細胞が心臓形成の過程でその数を増やし、広い範囲に分布することを示唆している。このマウスの解析から、TRPSにおいてみられる多岐にわたる先天性心奇形が発生する原因の一端を示せたと考えられる。その他、軟骨におけるCre活性である。今回のマウスでは関節軟骨では非常に強いCre活性が見られたのに対して、軟骨成長板においてCre活性は全く見られなかった。Trps1遺伝子は関節軟骨、軟骨成長板いずれにおいても発現することが知られているので、今回の解析からTrps1の発現はこの二つの部位で異なる発現制御様式をとることが示唆された。
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