研究課題/領域番号 |
26462893
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
中村 裕子 明海大学, 歯学部, 講師 (50265360)
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研究分担者 |
森 一将 明海大学, 歯学部, 講師 (80372902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Enamel matrix Protein / 血管新生 / 組織誘導 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
本研究では、Enamel matrix Protein (EMD)という生物学的活性物質を用いて、損傷を受けた歯髄の創傷治癒を促進させることを到達目的としている。その結果として修復象牙質の形成を早期に誘導するという【歯髄-象牙質の再生療法】を歯髄生物学や硬組織形成メカニズムにおける新たな理論的体制として構築させ、臨床での活用を確立させることにある。 この目的達成のために、創傷部におけるEMDの歯髄および硬組織再生として、血管形成と創傷治癒そして硬組織誘導の相互作用を検討するものである。27年度に実施した研究では、ディフュージョンチャンパーというリングの両面をメンブレンで封鎖したディスクを用いた。内部にEMDを挿入したディスクを、ラットの背部の皮下組織に静置したうえで飼育した。数週後にディスクを摘出し、メンブレン表層に付着した組織の状態を検討した。EMDを挿入したディスク表面のメンブレンには、豊富な血管組織を含んだ結合組織付着した。メンブレンを組織ごと取出し、付着した組織の付着状態や厚み、組織内に走行する血管組織の様相を形態学的に観察した。これにより、EMDの結合組織や血管誘導効果を検討した。対象には、プロピレングリコール(PLG)のみを挿入したディスクを用いた。 結果、EMDは、それ自体に高い細胞誘導効果が有ることが認められた。メンブレン表層に浸出する成分により、血管組織を封入した結合組織の強固な付着を認めた。PLGのみを挿入したディスクでは、これら強固な付着は認められなかった。これらの結果を平成27年度保存学会第143回秋季学術大会において、発表を行った。さらに、EMDの濃度および低出力レーザー(Low reactive level laser therapy:LLLT)レーザーの影響を加え、組織再生の促進、血管誘導への影響を加え検討を行った。この結果についても平成28年度学咬合学会にて、発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の研究では、ラットの臼歯に対して露髄面を形成し、断髄処置を行った後の組織内変化を検討した。損傷を受けた歯髄組織の表層をEnamel matrix protein (EMD)もしくはその他の生体活性材料を用いて覆髄した。これによりEMDにより被覆された組織は、迅速に炎症の消褪と新生血管の形成が認められた。また、新生された血管様組織の周囲には血管新生のマーカーである抗VEGFの陽性反応が認められた。この結果は同様にラット下肢脛骨に行った穿孔部においても同様の結果が得られた。創傷治癒における炎症組織の排出と組織の回復のための増殖において、速やかな血管の新生は欠かすことができない。これまでの実験結果からEMDは、高い血管新生を有することが確認された。そこで新生血管と結合組織を伴った組織の誘導や細胞付着を高める効果についての検討へとシフトしていく。これは、研究の到達目標である、EMDによる歯髄創傷治癒のメカニズムを解明するという中で、EMDの組織および細胞誘導の詳細を解明しようとするものである。組織誘導と新生血管の形成および誘導効果を詳細に検討するため、生体内ディヒュージョンチャンバーを作成し、メンブレンフィルターの内部にEMD、プロピレングリコールを封入した。これをラット腹腔内に静置し、数週間飼育した。本実験によりEMDの細胞誘導、組織誘導能の効果が立証されたと考えている。これらの結果が得られたことにより、本実験体系は、おおむね順調に進んでいると考えられる。さらにEMDの効果を減弱もしくは拮抗させる薬剤や因子を用いることにより、詳細な作用機序を明らかにできるものと考えている。また、誘導された組織内に分泌された因子についても、免疫組織学的染色などをもとに、よし詳細な検討を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から得られた情報(Enamel matrix proteinの組織誘導、細胞誘導、血管新生能などによる創傷部治癒促進作用)をもとに、さらに効果を高め、相乗的に作用する物質もしくは刺激の検討を行う予定である。その一つとして、レーザー照射を試みたいと考えている。 低出力レーザー(Low reactive level laser therapy:LLLT)の作用を検討し、照射時間の調整から長期長時間の作用による影響も併せて検討しようと考えている。初回には、LLLTの中でも、半導体レーザーを用い、その後は波長の異なる他のレーザー機器を用いてLLLTモードの使用に限定した組織誘導促進作用の影響を検討しようと考えている。一方で、EMDの効果を減弱させる物質や拮抗作用となる物質を模索することで、EMD事態の作用機序の解明を行おうと考えている。この実験の一部は、現段階ですでに予備実験を行っており、検討中である。 歯髄再生療法として、歯髄を失って久しい根管に歯髄様組織を誘導し、根管内部の壁に新生象牙質の添加が生じることは、歯の保存にとって有意義であると考えられる。この視点から、EMDの可能性を明確化するために、根管モデルを用いて、EMDにより根管内への歯髄組織の誘導促進効果を検討しようと考えている。歯髄幹細胞、間葉系幹細胞と共にもちいるオプションとしても効果の有無を検討しようと考える。これらを推進方針として研究を試みている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究実施計画として、これまで行ってきた研究内容に加え、免疫染色など高価な抗体を購入すべき研究計画がある。そのほか、相乗的に作用する物質もしくは刺激の検討を行う予定である。その初めとしてレーザー照射がある。低出力レーザー(LLLT)の作用を検討し、長期長時間の作用が与える影響を併せて検討しようと考えている。半導体レーザーや波長の異なる他のレーザーによる影響も検討しようと考えている。一方で、EMDの効果を減弱させる物質や拮抗作用となる物質を検討することでEMDの作用機序の解明を考えている。 されに歯髄再生療法としてのEMDの可能性を明確にするため、根管モデルを用いて、EMDにより根管内への歯髄組織の誘導促進効果を検討しようと考えている。これら予定する各種実験系に必要と考えられる予算に残金の運用をあてる予定をしていた。さらに、本年度は論文投稿、学会発表費用なども検討しているため、余剰金の確保を優先した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究体系の最終年度として、再現性を確認するとともに、さらなる実験系の追加を検討している。これらに必要な物質に資金の運用計画を建て、計画していた。また、予定する実験系に必要とされる材料や薬剤は、長期保存可能でないものも多く、使用時期に順次搬入する必要がある。これらの内容としては、実験動物(具体的には概ねSD系ラット)、EMD、予定している各薬剤、生体活性物質、免疫染色用抗体などが含まれている。これらの各種薬剤は、高価であり価格の変動があるものも含まれているので、慎重に計画している。また、昨年度考案した実験用生体内ディヒュージョンチャンパーに加え、本年度は、歯髄再生療法のための根管モデルの作製を検討している。さらに最終年度であるため、実験結果の発表および報告を予定してる。
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