研究課題/領域番号 |
26580003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山森 裕毅 大阪大学, コミュニケーションデザイン・センター, 研究員 (00648454)
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研究分担者 |
久保 明教 一橋大学, 社会(科)学研究科, 講師 (00723868)
渋谷 亮 成安造形大学, 芸術学部, 講師 (10736127)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生権力 / ビオス / ゾーエ / 家庭料理 / 情報 / 子育て / ひとり親 / 居場所 |
研究実績の概要 |
2014年5月18日に第一回研究会を実施し、山森が「家」の喪失に関する哲学的考察を、久保が「料理と情報」に関する考察を、渋谷が「ひとり親」に関する歴史的考察をそれぞれ発表し、今後の方針を検討した。 山森は、7月22日金光教大阪センターにて、支縁のまちネットワークの主催する第一回公開学習会で「講演:釜ケ崎という場で哲学する~「アジール・呱呱の声」の会の活動」という発表を行った。釜ヶ崎の単身高齢生活保護受給者が自室に引きこもり、公共性を喪失していき、孤独死する事態に対する支援制度の一環として行われている哲学会の分析を、ホームレスや生活困窮者の支援に携わっている宗教者たちに報告したものである。 久保は、現代料理と情報技術の関連性の観点から、現代において食の情報化を基盤としながら家庭外料理の家庭料理への取り込み/拒絶/再編が行われる場としてレシピ投稿サイトを捉えた上で、定期的に投稿サイトを利用しながら投稿レシピの傾向を分析する参与観察とレシピ投稿サイト運営会社の事業戦略担当者に対する定期的なインタビュー調査を行った。 渋谷は、ひとり親(シングルマザー)から、暮らしを成立させるためにいかなる身体的・実践的な知が用いられているかに焦点を当てて聞き取り調査を行った。現在はこの調査をもとに、暮らしを成立させる尺度やつながりの作り方といった観点から現代における「部分的な合理性」の様態を分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「住むこと」「食べること」「子どもを育てること」に関する現代的な諸実践の研究である。当初予定していた日本哲学会での発表は、それぞれの議論がまだ公表の段階に達していないと判断し辞退した。 山森は、現在精神科グループホームの非常勤職員として業務に従事する機会を得ている。そこで、精神疾患に基づく生活困難からの回復過程に「家」や「居場所」などの場所性がどのような有効性を持つかに関してフィールド調査を行っている。現段階で、「家」とデイケアなどの「施設・職場」とそれ以外の「第三の場所」が連関することが、暮らしを建て直し安定させていくことに重要であるという仮説を得た。2年目はこの仮説を考察し、学会ワークショップにて発表する予定である。1年目の研究としては、おおむね順調に進んでいるといえる。 久保は、明治大正期から現代に至る家庭料理と外食の変化について文献調査を行い、〈家庭料理のあり方は情報化と自動化に伴う疑似労働の家事労働への変換を通じて変容してきており、変容の方向性は家庭料理において家庭外料理を構成する諸要素がいかに取り込まれ/拒絶され/再編集されるかに大きく依存するのではないか〉という仮説を得た。ここから家庭料理における家庭外料理の包摂と排除が生じる契機として料理の情報化を捉える視座を得ることができ、1年目の研究としては十分な達成点といえる。 渋谷は、ひとり親(シングルマザー)へのインタヴューと、戦後女性史の研究を並行して行った。そのなかで(1)家事労働と子育てをめぐる技術や制度の進展とともに、家事労働における合理化しえない、ばらばらな側面が表面化してくること、また(2)これに対処するために一種の「部分的な合理性」を作る試みが多様な仕方でなされてきたことを確認した。2年目の研究につなげていくに十分な下地づくりができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
一年目で得た知見に基づいて考察を進めていく。とりわけ、生権力論に関する理論面での考察の比重を大きくしていき、実地調査等で得た現代生活の分析に取り込んでいくように努める。 山森は、実地調査を継続しながら、「家」と「施設・職場」と「第三の場所」の連関に関する考察を進めていく。社会学で使われる「サード・プレイス」の概念や、ハンナ・アレントの「労働/仕事/活動」の三区分、エマニュエル・レヴィナスの場所形成の哲学、日本での居場所言説などを取り入れながら、居場所の形成に関する哲学を構築していくつもりである。 久保は、インタビュー調査を継続するとともに現代のレシピ投稿サイトと似た役割を果たしてきた料理研究家、レシピ本、料理教室などの歴史的変遷を調査し、料理の情報化をめぐる系譜学的分析を行う。その成果に基づいて、アガンベンが定式化した〈ビオスによるゾーエの排除と包摂の一類型としての生権力〉の対極に〈ゾーエによるビオスの排除と包摂〉という契機が見いだされることを家庭料理の情報化の軌跡から明らかにする論考を練り上げ、公表していく見通しである。 渋谷は、現代思想における女性論、さらにそれに影響を与えたジャック・ラカンの議論などの検討を通して、家事労働におけるばらばらな側面とこれに対処する部分的な合理性の展開という観点から、戦後の未亡人の問題、保育所をめぐる運動、80年代以降の生活者をめぐる議論やコミュニティの広がりなどを検討していく予定である。 研究会や検討会などを通して、情報の共有と方向性の調整を行っていくことで、研究のクオリティを上げていくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
・日本における家庭料理の変遷をめぐる文献調査において、関連する学術文献を購入し精読した後で、各時期を代表する料理研究家の著作、料理レシピ本、レシピが掲載された雑誌などの一次資料を(主に古書にて)数万円分購入する予定であったが、家庭料理の歴史的変遷を捉える分析視角を練り上げることをまず優先したため、本年度は購入を控えることになった。一次資料の対象範囲は膨大であり、明確な指針なしに購入すると経費使用が非効率的になる恐れがあったためである。(久保) ・70年代までの女性史に関する資料およびひとり親の手記などの資料に関して、すでにある程度まで収集しており、本年度はそれらの文献調査やインタビュー調査などを中心に研究を行ったため、文献購入を控えることになった。(渋谷) ・残金は52円であり、ほぼ使用している。(山森)
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次年度使用額の使用計画 |
・次年度使用額は当初の予定通り古書を中心とする一次資料の購入に充てる計画である。(久保) ・次年度以降は、文献調査の範囲をさらに拡大する予定である。具体的には80年代以降の女性史や生活史に関する文献、女性史のなかでもこれまで不十分にしか検討していない領域に関する文献、およびエコノミー論、生権力論、コミュニティ論に関する文献の調査を行う。また学会などに関しても適時参加する予定である。そのために繰り越し金を使用していく。(渋谷) ・残金は52円であり、個別の使用計画を立てられる額ではないので、2015年度の費用に織り込んで使用していく。(山森)
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備考 |
山森が発表に用いたパワーポイントの資料が掲載されている。
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