研究課題/領域番号 |
26580145
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
村尾 静二 総合研究大学院大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (90452052)
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研究分担者 |
大森 康宏 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (00111089)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 映像人類学 / 民族誌映画 / 文化人類学 / 教育 / メディア / 国際情報交換 フランス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、文化人類学の教育と研究のなかで映像メディアを効果的かつ創造的に活用するための実践的なモデルを構築することにある。その実現に向けて、本年度は(1)海外の教育・研究機関における調査および意見交換と(2)欧州における民族誌映画の実情に関する調査を実施した。次にその詳細について述べる。 (1)海外の教育・研究機関における調査・意見交換 2014年5月に、フランス、パリの日本文化館にて、大森康宏制作の民族誌映画『若き七福神』(1983)と『津軽のカミサマ』(1994)を上映し、日本における映像人類学教育や民族誌映画の現状について解説した。会場には多くの教育者、研究者、学生が集い、日本とフランスにおける映像教育に関して、様々な観点から意見交換・討論した(大森)。 また、アクサンプロヴァンス大学でも、映像教育者や学生を対象にして上映会を開催した。フランスでは、映像を制作する前に、撮影対象と社会との関連性に重点を置いてシナリオを構成する教育をしているために、多くの参加者にとって日本の作品は社会との関連性についての説明が不足している印象を持つことが明らかになった。このように上映を通して、フランスと日本における映像教育の情報交換・交流を図った(大森)。 (2)欧州における民族誌映画の調査 2014年11月にフランス、パリにて開催されたジャン・ルーシュ映画祭2014に出席し、大学、研究機関、各種メディアが制作している最新の民族誌映画を視聴し、関連する図書・映像資料を収集した。また、主催者の一人である映像人類学研究者フランソワーズ・フコー女史、ジャック・ロンバー氏と面会し、フランスにおける映像人類学および民族誌映画の現状について意見交換した(大森・村尾)。また、日本文化研究者ジャンヌ・コビ―氏と面会し、文化・社会における映像の役割・関連性について討議した(大森)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究目標である(1)海外の教育・研究機関における調査・意見交換と(2)欧州における民族誌映画の調査は、概ね達成することができた。次年度も継続してより多角的に調査を展開していくなかで、実証的かつ具体的で厚みのある研究を実現していきたい。 また、初年度は、映像人類学教育を実践している欧州の大学にも訪問し、高等教育機関における映像教育の実例について、教育者、研究者、学生と意見交換・討論することも視野に入れて準備を進めていた。しかし、双方のスケジュールが合わず、実現することができなかった。この調査に関しては、第二年度において実現することが出来るように調整を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
映像機器の変化は映像人類学、文化人類学の教育と実践に大きな影響を及ぼしてきた。高価かつ高度な操作知識を要するアナログの時代から安価かつ容易に操作できるデジタルの時代へと移行するなか、映像は映像人類学だけでなく文化人類学全体に問題となった。フィールドワークから研究成果の公表、さらには教育に至るまで、文化人類学と映像は密接に結びつき、それにともない、これまで以上に様々な民族の文化的営みが次世代に向けて映像記録されようとしている。これは文化人類学の発展にとって喜ばしいことである。しかし、その一方で、懸念もある。映像の倫理的課題やアーカイブズなど、文化人類学と映像の重要な論点について共通の理解が築かれておらず、文化人類学にとって映像はまだ充分に活かされていない。このような問題を背景として、映像人類学教育の充実は欧州においてもますます重要な課題となっている。このような動的な学術状況を丹念に調査し、日本の文化人類学教育に活かしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度ということで節約しながら調査を進めたこと、また、初年度に欧州の大学で実施する可能性があった調査を次年度にすることにしたために、次年度使用額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
欧州での調査とそれに要する物品の購入、人件費・謝金に使用する予定である。
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