本研究の最終年度である平成27年度には、前年度における研究成果をふまえ、それぞれ個別に行ったアメリカとフィンランドの授業実践データの分析を詳細に比較対照し、緻密な検討・考察を行うことによって、授業における学習活動システム上の相違点を超え、両国の事例に共通して発見可能であるような、21世紀型学習の革新的なデザインと実践を本質的に特徴づける新しい基本原理の解明に取り組んだ。 そのさい、授業における子どもたちの学習が、単独の個人ではなく、「活動システム」という高次のレベルでどのように生成しているのかをとらえようとする「活動理論」の枠組みを用い、子どもたちの21世紀型学習を促進・支援する授業過程にとって本質的な特徴は何かを明らかにしていくことを試みた。 分析では、日本の先進的事例も比較検討に加え、学校における21世紀型学習のための授業への転換を、子どもたちの「拡張的学習」の生成という点から特徴づけていった。「拡張的学習」は、学習者が与えられた情報を超え、いわば指導者の手に負えなくなり、コントロールの枠外に出るような学習である。学習のそうした「拡張性」によって、子どもたちは活動の新しい対象やパターン、集団で新たな生活を築く実践の形態について学んでいく。つまり、「拡張的学習」は、「いまだ存在していない何か」を学ぶような学習なのである。 こうして、21世紀型学習への転換は、子どもたちの潜在能力と主体性を解き放つことによって、自分たちの活動システムを自分たちで創り出し、学校外の現実社会において「いまだ存在していない何か」を学んでいくような、子どもたちの拡張的学習を生成することとしてとらえることができる。いいかえれば、拡張的学習としての21世紀型学習は、あらゆる子どもたちがハイレベルの行為主体感(high-agency)にもとづく豊かな学習を享受できることをめざすものなのである。
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