研究実績の概要 |
本研究課題では,非平衡統計力学系に対して次のような数学的なアプローチを試みる.非平衡系の時間発展規則をマスター方程式により導入する方法は一般的であるが,私は超幾何関数論に基づきマスター方程式が厳密解を持つような系の発見と分類を最終目標とする. 本年度は,非平衡系のモデルとして知られる非対称単純排他過程(ASEP)の可解性を,別のやはり可解であることが知られているMisanthrope過程により解析する方法を提案した.ASEPは境界の影響によって相転移を起こすという点で通常の平衡系とは全く異なるのであるが,一方で,周期境界条件の下でも定常な粒子流を持つことが知られている.私は今回,両端を持つ場合と周期境界の場合のASEPを同時に実現するような系を,Misanthrope過程を改変することによって構成することに成功した.この結果,全く一様な系であっても自発的に対称性が破れてあるサイトに粒子が集中するという凝縮現象をシミュレーションと理論計算の両方で確認することが出来た.この研究成果は,単著論文 Realization of the Open-Boundary Totally Asymmetric Simple Exclusion Process on a Ring, J. Stat. Phys. 157 (2014) 282--294 にまとめて発表されている. 次年度は,本年度に続けてASEPを拡張したいくつかのモデルについて,そのマスター方程式が厳密に解けるための条件を探っていく予定である.
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