研究課題
本研究の目的は、かんらん岩試料中のマントル有機物の存在について、かんらん岩試料の微細組織の観察から、場所や存在形態を確認し、その存在意義を考察することにある。平成28年度は、前年度までに採取、入手した主にかんらん岩体試料(岩内岳かんらん岩)のマイクロX線CT画像スキャンおよびその解析を行った。しかし、使用したマイクロX線CTスキャンの解像度はおよそ数100ミクロン程度とあまり高くは無く、有機物が存在するような不均質性は発見出来なかった。今後より高解像度の機器による計測が必要であることが分かった。マイクロX線CTスキャンに加えて、試料の切断・粉末処理等を行う化学分析の前に、非破壊分析で密度・空孔率測定などの岩石物性計測を実施し、試料内部の状態の確認を行っている。さらに、連携・研究協力者と議論し、有機物を確実に有するかんらん岩体試料を新たに選定し、特に有機物量の多いかんらん岩試料を入手し、それらの試料の記載に着手した。具体的には、ウラル山脈のかんらん岩試料を譲り受け、その試料の記載、分析を開始した。一方、マントルかんらん岩捕獲岩試料については、海底火山の一つであるプチスポット火山の玄武岩に包有されている試料について、岩石学的記載・分析を行った結果、海洋プレート下部において、少量の含水メルト流入の証拠が見つかり、またそのメルトによる海洋プレート最下部の汚染(マントル・メタソマティズム)が確認された。その結果を国際誌(Nature Geoscience)に投稿(掲載)、国際学会で発表した。このメルトは、かんらん岩中に存在が報告されている有機物(高分子炭水化物)と何らかの関係があるメルト(カーボナタイト)とは異なる。カーボナタイト流入の証拠は見つかっていない。継続してかんらん岩試料の詳細な記載・分析を行い、有機物の存在箇所・形態に関する情報を絞り込み、その形成史・存在意義を特定したい。
4: 遅れている
平成27年度に、突発的に発生した所属機関における追加研究業務に急遽半年間従事しなくてはならなくなり、当初予定していた当該年度の試料分析に遅れが生じ、本事業における研究計画が実質1年間の遅延が生じてしまった。
平成28年度に予定していた研究計画を、平成29年度に実施し、最終年度のまとめを行いたい。具体的には、1.優先試料:Sugisaki & Mimura (1994)論文において有機物含有量の多いかんらん岩体(岩内岳かんらん岩、ウラル山脈かんらん岩)試料と、オーストラリアのマントル捕獲岩を優先して分析・解析を行う。2.新たな手法:iMScopeやTEMなど、薄片や切片を用いて、微小領域における有機物同定を実施する。さらに。マイクロX線CTスキャンや、密度・空孔率などの物性測定を事前に実施するなど、多様な分析・解析方法を検討している。
平成28年度に予定していた研究計画を、平成29年度に実施する。具体的には、マイクロX線CTスキャン等物性計測、iMScopeおよびTEM分析等化学分析の為の海洋研究開発機構・高知コア研究所への出張旅費。X線CT画像解析を効率的に行うための、コンピューターおよびデータ解析ソフトの購入。試料処理・分析補助にかかる謝金支出、および消耗品の購入など。
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Nature Geoscience
巻: 9 ページ: 898-903
10.1038/NGEO2825.
http://www.jamstec.go.jp/souran/html/Natsue_Abe001583-j.html