研究課題
膠芽腫 (グリオブラストーマ, GBM) は原発性脳腫瘍のうち高頻度にみられる極めて悪性度の高い腫瘍である。浸潤性の強い腫瘍で再発することが多く、化学療法や放射線治療が併用されるが必ずしも治療効果は高くない。すなわち有効な治療法の開発が喫緊の課題である。本年度はGBM発生マウスモデル(Mosaic Analysis with Double Markers, MADM; Tp53およびNf1遺伝子が欠失) を樹立した。さらにそのゲノム・エピゲノム解析から、我々が新規発見した高頻度遺伝子増幅領域に着目し、その領域に存在する発がんの責任遺伝子について解析を行なった。複数のMADMマウスをもちいて解析したが17遺伝子より絞り込むことはできなかった。さらに遺伝子が増幅する時期は生後90日前後であることを見出した。従ってこれらの遺伝子群の増幅が発がんの後期に関与している事象であると考えた。公共データベースThe human genome atlas (TCGA)を用いてヒトGBMを解析した結果、Tp53およびNf1が欠失し、さらに同遺伝子領域が増幅しているGBMはproneural typeのGBMに集積していることを見出した。同遺伝子領域にはヒストン修飾タンパクをコードする遺伝子が含まれている(HMT-A)が、HMT-Aは正常細胞には存在しない複合体形成をしていることを免疫沈降法から見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、有効ながん治療を目指すため、がん細胞に特異的な弱点を見つけその分子基盤を標的とした分子標的薬の開発を目指す。本年度は我々が新規発見した高頻度遺伝子増幅領域の解析を行なった。その領域に存在する遺伝子について、がんに関わる責任遺伝子をより少数まで絞り込むことを目的として、MADMマウスの数を増やし解析を行なったが、当初の17遺伝子より絞り込むことはできず、これらの遺伝子群が発がんに関与していると考えた。それらの遺伝子に、ヒストン修飾に関わる酵素(HMT-A)が含まれていた。HMT-Aはこれまでの報告から幹細胞性、未分化性の維持に必須なタンパク質であることがわかっていることから、HMT-Aについての解析をさらに進めた。その結果HMT-Aはがん細胞特異的な異常複合体形成に関わることを見出した。以上のように当初の計画通りに研究は進んでおり、来年度に向けて基盤的データの構築をほぼ終了している。
平成26年度の結果を踏まえ、1) HMT-Aおよびその異常複合体についての機能解析。2) 同定した発がん関連遺伝子を標的とした小分子化合物のスクリーニング系の構築を今後は目指す。具体的には1) HMT-Aが異常複合体を形成する機序について解析を行なう。特にTp53の有無が異常複合体形成に関与する予備実験結果を得ており、その検証および詳細な機序について研究を進める予定である。2) HMT-Aと異常複合体形成をするタンパク(WDP)をそれぞれ蛍光ラベル化しAlphaテクノロジーでスクリーニング系の構築を行う。またエピゲノム修飾酵素の場合には、修飾部位を認識する抗体を蛍光ラベル化し、細胞ベースのスクリーニング系を構築する。
予定より少ないマウスの解析で26年度の計画を達成できたため。
今年度はin vitroでの解析を中心に研究を行う。研究計画のうち特にタンパク質の相互作用を中心にした解析に研究費を使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 5件) 図書 (8件)
PLoS One
巻: 10 ページ: -
10.1371/journal.pone.0115350
Oncogene
巻: 34 ページ: 1629-40
10.1038/onc.2014.101