研究課題/領域番号 |
26650135
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
馬場 理 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30317458)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キノロン / 復帰抗生物質 / ナイボマイシン / フラボン / アピジェニン |
研究実績の概要 |
本研究は、キノロン耐性菌のみに奏功する放線菌由来の復帰抗生物質・ナイボマイシン、および同様の活性を持つ植物由来アピジェニンの再発見にヒントを得て、キノロンに対する復帰抗生物質が自然界に存在する理由を考察することから始めた。一般には、「抗菌薬の濫用が耐性菌を蔓延させた」と理解されているが、仮にこれが真実であり、キノロン導入以前に耐性菌が存在しなかったのならば、自然は復帰抗生物質を産生する理由を喪失する。そこで逆に「自然界には元来キノロン耐性菌が広範に存在しているのではないか?」と考え、それを証明することで、耐性菌に関する従来の見方に転換を迫ることを目的としている。 研究計画に従い、日本全国で環境菌を採取し、含まれるキノロン耐性菌およびその種を同定した。資料採取は、ヒトの経済活動が盛んな場所から、ほとんどヒトが立ち入らない箇所に至るまで、様々な条件下を意図的に選択した。解析の結果、環境中にはキノロン耐性菌が広範に存在していることを見いだした。さらに、キノロン耐性菌および復帰抗生物質耐性菌を分離し、クラスター解析に供したところ、特定の菌種・属にキノロン耐性と感受性菌の両方が存在するのではなく、キノロン耐性の細菌属と、復帰抗生物質耐性とは明確に区分された。加えて、復帰抗生物質耐性菌属の見られる群には、ヒト病原性を示す菌種が含まれるが、キノロン耐性を示すそれには、病原性を示すものが見いだせないことも示した。これは、進化過程において、たまたまキノロン感受性を示す菌が、ヒトに病原性を持つように分化したに過ぎないことを示唆している。それゆえ、臨床上問題となるキノロン耐性菌が出現する以前は、キノロン系抗菌薬が治療に奏功したのだろう。この結果は、細菌の進化過程に復帰抗生物質が関与したという、新たな視点を与えるのに加え、細菌とヒトとの共存・敵対関係が生じた進化的過程を考察する一助となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体的に計画に沿った到達度を達成していると考えられる。上述したように、分類学上の細菌の区分が、キノロン耐性/感受性と深く相関することを見いだした結果は、当初は想定しなかったものである。「ヒトによる抗菌薬の使用が耐性菌を蔓延させた」という常識に見直しを迫り、かつ進化の観点からは、細菌学の教科書を書き換えるインパクトがあるだろう。また、温泉由来の熱水湧出箇所で採取した細菌を培養する手法の確立に手間取っていたが、とりあえずメタゲノム解析を進める方向に転換し、種々の条件で生育する細菌叢の同定を進める。世界有数の火山帯に属する我が国にとって、生物資源開発の観点からこの解析は重要と考えられるため、鋭意努力して、何らかの成果を得たいと考えている。 研究それ自体は興味深い方向に進んでいるが、得られた資料の解析に時間を要している。これは、解析の中心となる次世代シークエンサーを共用機器として用いていることに加え、データーベースと参照する計算作業を現実的な速度でこなすコンピューターの台数が限られているためである。時間をかけて進める以外に方法がない。また、この作業遅延により、論文作成に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
環境中菌に復帰抗生物質感受性菌(キノロン耐性菌)が普遍的に存在し、ヒトへの病原性を示すものが見いだせない一方、ヒト病原性を獲得するよう進化した菌は、たまたまキノロン感受性菌であった、という仮説を補強すべく、さらに偏性嫌気状態を含む種々の環境から細菌を採取し、同様の結果が再現することができるかを検討する。並行して、ナイボマイシンを産生する放線菌の全遺伝子配列を確定し、ナイボマイシンの整合性に関わる遺伝子の同定を目指す。これが実現すれば、ナイボマイシン生合成遺伝子に特異的な核酸増幅法(PCR)プライマーを設計することができ、土壌中のナイボマイシン産生放線菌の有無を簡単に調べることができるようになる。加えて、その土壌に含まれる細菌叢のナイボマイシン耐性(キノロン感受性)プロファイルと照合し、ナイボマイシンが細菌叢形成に及ぼす影響を評価することによって、復帰抗生物質が細菌種の分化を促した可能性を提示することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」欄に記載したように、次世代シークエンサーおよびその後に続く解析に時間を要している。ここが全研究活動の律速段階になっており、試料採取だけを進めても、その後の解析に支障を来している。仮に土壌や湖沼水などの採取だけを進めても、冷蔵庫にしばらく放置する必要があり、そのことが解析結果に悪影響を与えるのを恐れ、採取自体を抑制せざるを得ない状況である。さらに、この状況が論文の作成にも遅延をもたらしている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の遅延理由は、時間さえ費やせば解決できるため、計画に従い漸次研究を進める。
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