研究課題
天然有機化合物の構造決定において、スペクトル解析は極めて重要である。多くの場合、シグナルの帰属では経験に基づく帰納的判断がなされてきた。したがって特異な構造の場合、データベースの信頼性は著しく低下、即ち構造の信頼性が低下する。一方、近年のコンピュータ技術の発達によって量子化学に基づくスペクトル予想が可能になってきた。しかし、その適用範囲は未知で、広く普及させるには一般的なスキームの確立が不可欠である。本研究課題では、NMR化学シフトおよび電子円二色性スペクトルに標的を絞り、量子化学的計算による予想に必要な計算手法、基底関数、構造最適化アルゴリズムなどの条件の選択、最適な配座解析法の組み合わせ、精密計算が対象としうる化学構造などのscope and limitationを行い、in silicoスペクトル予想を天然物化学に普及させる基礎プロトコルを作成しようとするものである。構造未知なエポキシロゼノンは、NMR構造決定に有用な水素の数が少なく、またほとんどがシングレットとなって現れるため、候補構造までは絞り込みできるものの従来法では結論に至ることができなかった。報告者らは、これを計算機科学によって候補構造の化学シフトを予想し、天然物と比較することで決定、さらに円二色性スペクトルについても計算スペクトルと比較することにより、全構造を決定した。この時、構造ひずみが原因で配座解析で通常用いる分子力場法では、配座解析は不十分で、分子軌道法を用いて行う必要があること、化学シフト予想はEDF2/6-31G*法が有効であること、また円二色性スペクトルではBHandHLYP/TZVP法が効果的であることを明らかにした。本手法を新規エピコクリオキノンの構造決定に応用し、円二色性スペクトルはCAM-B3LYP/TZVPが有効であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、3系統の未知天然化合物の構造決定に応用し、本研究の考え方が有効であることを証明した。
計算のレベルと、計算に必要な時間は正の相関がある。しかし、計算のレベルを高くしても、予想できる制度は予想以上に向上しない場合も複数経験した。今後、計算のコストパフォーマンスを最適化、さらに汎用パソコンで実行可能な化学構造などを検証していきたい。
配分金減額のため、当初予定した備品を購入することができなかったため。
次年度配分額と合わせて、備品を購入する。
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