研究実績の概要 |
女性の乳癌罹患率・死亡率ともに上昇傾向にあり、乳癌の克服は社会的に見ても極めて重要である。現在、乳癌の治療にはエストロゲン受容体等を標的とした医薬品が使用されているが、抗癌剤による治療には限界があり長期投与による薬剤抵抗性など解決すべき課題が残されている。そこで本研究では、既存の薬剤に対して抵抗性を示す「癌幹細胞」に焦点をあてて、エストロゲン受容体の結合因子を検討した。癌幹細胞は、細胞株に含まれる細胞内アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の酵素活性を利用する方法により同定した。 昨年度までの結果から、エストロゲン受容体に結合する分子の中でCHIP/Stub1ユビキチンリガーゼは癌幹細胞を負に制御することを明らかにしてきた。今年度は、MCF-7細胞にCHIPの発現を上昇させる化合物の影響を検討した。その結果、化合物処理により、濃度依存的にALDH陽性細胞数が減少した。従って、CHIPは乳癌幹細胞の新たな標的分子であることが示唆された。次に、幹細胞の未分化維持にはNotch, Wnt, Hedgehogなどが重要であると考えられているが、CHIPとの関連を検討した。CHIP過剰発現株においてもこれらのシグナル経路の標的遺伝子の発現には変化が認められなかった。従って、CHIPによる新たなstemnessの制御メカニズムが考えられた。現在、CHIPの発現制御機構を検討するとともに、CHIPの基質の探索を進めている。 以上の結果から、本研究においてCHIP/Stub1ユビキチンリガーゼによる乳癌幹細胞の新たな増殖制御機構が示唆された。今後、新たな乳癌治療薬への応用が期待される。
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