研究課題
がんの再発や転移を引き起こす原因としてがん幹細胞が注目されているが,上皮性腫瘍におけるがん幹細胞の維持機構は明らかでない.内胚葉由来の上皮細胞を起源とする乳がん細胞と,中胚葉由来の白血病細胞の生物学的特性は異なると考えられるが,休眠状態での制御や治療抵抗性といったがん幹細胞の特性の制御には共通性が存在するのではないかという仮説を着想するに至った.本研究では,がん幹細胞の制御メカニズムの共通性を手掛りとして上皮性腫瘍である乳がん幹細胞の特性を明らかにすることを目的として,CML幹細胞と乳がん幹細胞の代謝産物のメタボローム解析を行った.まず,マウスCML幹細胞におけるメタボローム解析を行い,ジペプチド種が高発現していることを見出した. 次いで,乳がん幹細胞におけるメタボローム解析を行った.まず,CML幹細胞で発現上昇が認められたジペプチド種について解析を行ったが,発現変化は認められなかった.次いで,アミノ酸の発現レベルの解析を行った結果,セリン,スレオニン,チロシン,アラニン,グリシン,ヒスチジン,リジン,トリプトファン,ロイシン,イソロイシン,バリン,メチオニン, システイン,アスパラギン酸,グルタミン酸の発現上昇を認めた.さらに,乳がん幹細胞とCML幹細胞との間で共通して変動の見られる代謝産物を解析した結果,不飽和脂肪酸ドコサヘキソン酸が発現上昇していることが明らかとなった.ドコサヘキソン酸は血中における脂質濃度を低下して動脈硬化や脳梗塞,冠動脈硬化症などの予防効果を有することが知られているが,乳がん幹細胞やCML幹細胞の自己複製能の維持や抗がん剤抵抗性における役割は明らかでない.本解析によって,不飽和脂肪酸の獲得や蓄積,あるいはその代謝産物が乳がん幹細胞やCML幹細胞の維持に関わる共通のメカニズムとなる可能性が明らかとなった.
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