研究課題/領域番号 |
26670194
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
成島 聖子 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (80578336)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / ノトバイオート / 大腸腫瘍 / 胆汁酸 |
研究実績の概要 |
慢性炎症を背景とする大腸癌に腸内細菌が深く関与していることが数多く報告されているが、いまだ不明な点が多い。本研究では、発癌に関わる細菌種を分離・同定し、腸内細菌による発癌メカニズムを明らかにすることを目的とする。平成26年度は炎症性発癌モデルマウスとして、C57BL背景のInterleukin 10(IL-10)およびp53二重欠損マウスを作出し、このマウスを無菌化した。無菌マウスの一部をSPF環境下にて飼育し、腸炎および大腸腫瘍の発症について、観察を開始した。無菌環境下とSPF環境下での病態を比較することで、このモデルマウスにおける腸内菌叢の影響を確認することが可能となると考えられる。 腸内細菌叢が宿主の大腸発癌に影響を与えるメカニズムの一端として、腸内細菌による代謝産物の作用が示唆されている。特に一部の偏性嫌気性細菌によって腸内で変換された二次胆汁酸が細胞毒性や発癌促進作用を示すことが報告されているため、胆汁酸変換にかかわる7alpha-dehydroxylation活性を有する菌の探索を開始した。分離した菌のin vitroにおける7alpha-dehydroxylation活性を検討し、強い活性を示す菌を上記無菌IL-10・p53二重欠損マウスに投与することで、大腸発癌に及ぼす影響を評価したいと考えている。 更に本年度は、これまで分離したヒト腸管由来の菌について、糖の資化性、短鎖脂肪酸の生成、宿主の健康、病態に影響を及ぼすと思われるさまざまな代謝活性などについて解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請した計画においては平成26年度中にC57BL背景の無菌p53・IL-10二重欠損マウスを作出し、無菌とコンベンショナル環境下での違いを明らかにする予定であった。しかしながら二重欠損マウスの繁殖が予想外に難しく、実験に必要なマウスの確保に時間がかかっている。 その他の計画に関しては概ね予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
二次胆汁酸の生成能などに着目して選出した腸内菌を無菌のp53・IL-10二重欠損マウスに投与する。作出したノトバイオートマウスにおける投与菌(群)の定着を確認するとともに、腸炎、大腸癌の発症についてマウスの全身状態、下痢、肛門の汚れについて経時的に観察し、更に肉眼的・組織学的な解析を行うことで評価する。一部のマウスについては腸管組織における免疫細胞の分布、役割についても解析を行い、炎症における菌の関与について検討する。また、実験期間中は経時的に糞便を採取し、糞便内および腸内胆汁酸について詳細に解析する。 胆汁酸以外にも、脂肪酸や腐敗産物などの腸内代謝産物に大きく寄与する菌を選択し、無菌のp53・IL-10二重欠損マウスに投与することでノトバイオートの作出を試みる。 更に、特に腸管免疫細胞の中でも炎症の増悪に寄与する細胞(ヘルパー細胞)や、炎症の抑制に働きかける細胞(制御性T細胞)を誘導する腸内菌が、作出したp53・IL-10二重欠損マウスにおいて腫瘍の発生にどのような影響を与えるかについても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は当初、C57BL背景のp53・IL-10二重欠損マウスを無菌化し、繁殖を行って実験を開始することを予定していたが、マウスの無菌化、およびその繁殖に予定を上回る時間を要したため、具体的なノトバイオートの実験を開始することが困難であった。そのためマウスの維持及び解析に必要な予算が予定より少なくなり、次年度に繰り越すこととなった。次年度は今年度の遅れの分、当初の予定に比べマウスの使用が多くなり、費用が必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度も引き続き行われるマウス実験のために、マウスgenotypingのためのDNA抽出キット、マウス組織からのRNA抽出キット、Real-time PCR用試薬などについて、次年度についても今年度と同様の費用が必要と考える。更に、細菌培養のための消耗品購入費用、細菌の生化学性状試験用キット、代謝能の試験用試薬などについても今年度と同様に必要となる。当初の計画より遅れている、無菌p53・IL-10二重欠損マウスにさまざまな菌を投与してノトバイオートマウスを作出するためにかかる費用を、今年度繰り越した予算で負担する。
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