慢性炎症を背景とする大腸腫瘍に関与する腸内細菌種を分離・同定し、腸内細菌による発癌メカニズムを明らかにすることを目的とし、前年度に引き続き研究を行った。炎症性発癌モデルマウスとして平成26年度に作出した、C57BL背景のInterleukin10 (IL-10)およびp53二重欠損マウスを無菌化し、無菌マウスの一部をSPF環境下にて飼育し、腸炎および大腸腫瘍の発症について検討した結果、SPF環境下では盲腸および大腸に炎症が認められ、更に腫瘍が認められたのに対し、無菌の二重欠損マウス大腸には炎症も腫瘍も全く観察されなかった。一方で、いずれの環境下でも、一部のマウスに胸腺腫瘍が観察された。このことから、本マウスにおける大腸腫瘍発生には腸内細菌が関与していることが強く示唆された。 次に、大腸癌患者の腫瘍粘膜部より菌を分離し、この中から炎症誘導性や大腸癌との関わりが示唆されているFusobacterium属菌と同定された株を、上記無菌二重欠損マウスに投与し、観察を開始した。 更に、胆汁酸が腸内の偏性嫌気性菌によって細胞毒性や発癌促進作用を示す二次胆汁酸に変換されることから、胆汁酸変換に関わる菌の探索を開始した。in vitroにおいて胆汁酸の脱抱合、側鎖の脱水素反応、脱水酸反応に寄与する菌を分離し、強い活性を示す菌を上記無菌IL-10/p53二重欠損マウスに投与することで、大腸発癌に及ぼす影響を評価する予定である。 その他、宿主の免疫に関わる菌、特に腸管ヘルパーT細胞誘導菌を分離し、それらの特徴についても解析を行った。
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