嚥下機能障害者向けの介護食品の開発において、誤嚥リスクと密接に関連する飲み込み易さを評価する意義は大きい。食塊の飲み込み易さは、食塊移送時の必要に応じて形態が変化できる易変形性と、食塊が粘膜上を摩擦なく移送される潤滑性の、少なくとも二つの要因と関連すると考えられるが、食塊潤滑性の適切な評価方法は確立されていない。従来、潤滑性の評価には、ガラス板、アクリル板などに対する潤滑性が計測されていたが、これら人工物の表面に対する潤滑性が粘膜に対する潤滑性を適切に反映しないことが原因である。 本研究の目的は、粘膜標本を用いた食塊潤滑性の評価方法の開発にあった。屠殺直後ののウシ(黒毛和種、雌、2.5歳齢)の食道より筋層と結合組織を可及的に除去して得た筒状の食道粘膜標本を作製し、1.5mmを隔てて平行に配置した2本のローラー(8 mmφ×60 mm)に挟み、筒状の粘膜標本の一端を、嚥下時の食道内圧付近の内圧を生じる一定の力(1.47 N)で牽引する装置を製作する。この装置上で粘膜標本の内側に食塊試料を入れると、食塊はローラーによりしごかれ、粘膜内を移送される。この移送速度を計測し、潤滑性の指標とする方式である。 乾燥マッシュポテト(雪印メグミルク社製)に種々の割合で水を加えたもの(4 mm^3)を試験食塊とし、本装置により潤滑性を評価するとともに、12名の被験者の舌背上に同一量の食塊試料を置き、咀嚼を行うことなくそのまま嚥下することが可能か否かを、「容易に嚥下できる」から「まったく嚥下できない」までの5段階で評価させた。 以上の検討から、水分量75%(重量比)以上の食塊試料では粘膜標本内の移送速度が咽頭括約筋による食物の移送速度を超え、また同条件の試料について被験者が嚥下可能との評価を下したことから、本評価法が嚥下可否の判断に掛かる食塊潤滑性の評価に適した性能を示すと考えられた。
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