我々が実世界において得ている情報とは,様々な感覚と身体運動との統合により構成される能動的な「体験」である.本研究では人が自らの身体を使って主体的に対象と関わる能動的な体験を身体性インタラクションと呼び,五感の中でも特に身体に密接に関わる触感に着目し,身体運動と触感情報との関係性に基づく身体性インタラクションの設計論の構築,及びそこから生まれる新たなエンタテインメント・鑑賞体験・教育体験を創造するための基盤技術を確立することを目的としている. 平成29年度は,研究項目1「触感の記録・合成と身体運動に応じた実時間変調手法の確立」について,過年度に開発した,指が対象に触れた時に人が感じる触感を記録して実時間で増幅・変調することにより人の触感覚を増幅する「Haptic Aid」を利用し,人とロボットの触感覚を共有し協調動作の向上を図る試みを,イタリア・シエナ大学および国内の研究者と共同で行なった. 研究項目2「クロスモダリティに基づく触感の時空間性の拡張」においては,バイノーラル録音による3次元的な空間音響と球体上に放射状に配置された触感アクチュエータとのクロスモーダル効果により触知覚の空間性を拡張するデバイス「atmoSphere」を開発し,インタラクティブ技術とCG表現の分野における国際会議であるSIGGRAPH,および日本バーチャルリアリティ学会にて発表した. 研究項目3「身体性インタラクション設計・体験システムの構築と活用」においては,身体性インタラクションの具体的社会実装事例として開発した,聴覚障害者がダンスパフォーマンスの鑑賞を楽しめる触感による鑑賞装置「KaradaTap」,および音楽を身体的に学べるフロアタイル型の触覚提示装置「Tangible Pads」が,ドバイ国際映画祭に招待展示として招聘され,またSXSW Eduや国内科学館の常設展示としても展開されるに至った.
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