本年度は昨年度に引き続き,順序カテゴリ正方分割表解析において,カテゴリ情報を用いた新たな統計モデルを構築し,理論的にそのモデルに対する分解定理を与えた.また,昨年提案したモデルに対してその隔たりの程度を測る尺度を提案することで,応用面で違ったアプローチを用いたデータ解釈を行えることを示した. また,昨年度新たに設定した課題である診断研究における診断能の比較に対する研究では,まずはシミュレーションベースによる既存手法の性能の検証を行い,既存手法の中でどの手法が汎用性が高く,推奨される解析方法かの検討を行った.次いで,既存手法はすべて漸近論を用いており,とくにアカデミアなどで行われる臨床研究ではサンプルサイズが少ないことがままあるので,そのような場合に適用可能な正確な検定手法の開発を行った.こちらに関しては一定の成果(検定手法と既存方法との比較結果など)を得ることができ,現在論文を執筆中である. さらに,名義カテゴリ変数に対する経時データ解析のためのモデル構築については,推移確率を導入した統計モデルを構築し,これにより適切な解析が行えると考えられることを,シミュレーションベースではあるが示した.こちらについても現在論文を執筆中である. 研究期間全体を通じて,当初の目的である順序カテゴリ正方分割表解析における順序情報を利用した適切なモデル提案とそれに対する分解定理の提示,名義カテゴリ変数に対する経時データ解析のためのモデル構築,については一定の成果が得られた.さらに,新たに設定した課題としての診断研究における診断能比較における既存手法の検証と,小標本の際にも用いることのできる正確な検定手法の開発も行った.これらの研究を通じて,実際のデータ解析の有用性を示し,またそれらが実臨床の場に役立つことをある程度示せたと考えられる.
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