本研究では、中学校および高等学校の理科教育における倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の扱い方の実態を明らかにしながら、生命科学の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)をテーマにした教員研修教材の開発を目指して取り組んだ。 前年度までに行った中学校及び高校の理科教員を対象に行った理科指導に関する教員の意識調査の分析結果を踏まえて、本年度は幹細胞研究に関する生命倫理をテーマに、教員研修にも用いることを想定した教材を完成させた。また大学生を対象に、この教材を用いた研修プログラムの試行を実施した。研修プログラムの試行の際には、その前後に、再生医療や幹細胞研究に対する認識を調査し、受講前後の変化を調べた。その結果、受講後は再生医療の推進に対する態度が少し慎重傾向に変わること、また、受講前は、再生医療を実施した場合のリスクや費用への関心が高かったが、受講後は事故が起こった際の責任の所在や事故が起こった際の対応が整っているかなどの体制、そして国の政策や制度への関心が高まる傾向が見られた。 このように、再生医療や幹細胞に関する内容を教える際、開発した教材を用いた教育プログラムを採用して実施すると、研修プログラムへの参加前後で、参加者の着目する内容の視点に変化が見られることが示された。このことは、研修プログラムによって、受講者が再生医療の専門的内容やELSIの理解が進み、考える内容が変化した結果であることが示唆される。
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