研究課題/領域番号 |
26750138
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
吉田 智 気象庁気象研究所, 気象衛星・観測システム研究部, 研究官 (00571564)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 適応信号処理 / 雷放電 / 局地的大雨 / 竜巻 |
研究実績の概要 |
局地的大雨、竜巻をもたらす積乱雲による被害が国内外でも頻発しており、災害予測のための一手法として雷放電モニタリングが注目されている。しかしながら現在用いられている雷放電の標定手法では、雷放電が複雑な枝分かれを有する場合にその標定精度が著しく劣化し、災害予測を困難にしている。この課題を克服するために、無線通信分野で開発された最先端の適応信号処理技術を用いて雷放電路の標定する手法を提案する。まず計算機シミュレーション、および近畿圏のネットワークで実際の雷放電から取得した実データ解析を用いて提案手法の検討・検証を行う。さらに提案手法により得られた雷放電三次元データと気象レーダーデータの比較を行い、雷放電監視による局地的大雨、竜巻などの予測手法開発の糸口を得る。 具体的には、計算機シミュレーションでは雷放電由来の広帯域信号を発生させ、複数の受信機で観測し、適応信号処理(フーリエビームフォーミング、MMSE法、CAPON法など)を用いて電波源の標定及び誤差評価を行う。またセンサ数やセンサ配置の変化により精度がどのように変化するかを検討する。多点配置した広帯域センサによる観測を模擬し、複数の放電点を同時に発生させてその放射源の標定する計算機シミュレーションを行い、本手法が雷放電標定手法として有用であることを確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である平成26年度はアダプティブセンシングの一つであるフーリエビームフォーミングを用いた雷放電電磁波源の放射電力分布推定をシミュレーション上で再現し本手法が適応できることを示した。さらに他の科学研究費補助金で整備した近畿圏に展開中のBroadband Observation network for Lightning and Thunderstorm (BOLT)で実際に観測されたリターンストロークやNarrow Bipolar Pulseなどの雷放電に伴う電磁波形に対し本手法を適応し、その有用性を確認した。特にリターンストロークに対して本手法により得られた標定結果は電波源の位置を標定するだけでなく、リターンストロークに対する電力密度が低高度で高く、高高度で低いという結果が得られた。これはリターンスロークの電流密度を反映していると考えられる。本手法は雷放電の標定というだけでなく、放電物理を考察する上で有用なツールになりうることを確認した。この結果は現在論文誌に投稿中である。 一方、当該研究と比較するために到達時間差法を用いた標定技術を開発しBOLTに適応した。こちらも一般に考えられている雷放電に伴うLF帯電磁波源の標定結果よりも良好な結果が得られ詳細な雷放電の3次元像を得ることができた。第31回国際電波科学シンポジウム(Union of Radio Science International)において本研究の招待講演を行い、また詳細をまとめた論文は海外の論文誌に再録されている。このことから本研究がすでに国内外で大きな注目を受けており、高い評価を得ていることがわかる。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度において、計算機シミュレーションや実観測データを用いて提案手法の有用性を確認した。今後は同手法を実観測データに適応し、雷放電物理の解析、及びレーダーデータとの比較を行う。 しかしながら初年度の研究により提案手法は計算コストが非常に高いことがわかった。本研究の最終目的である、雷放電監視による局地的大雨、竜巻などの予測手法開発を目的とした場合、実用上、提案手法を適応は難しい。そのため提案手法だけでなく、昨年度開発した到達時間差法も併用して顕著現象を予測することを念頭に置いて研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は観測機のある大阪への数回の出張を予定していた。しかしながら出張1度のみで対応できたため、その分の予算(約5万円)を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度からの繰越を用いて今年度の大阪への出張旅費に充当する予定である。
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