研究課題/領域番号 |
26770022
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
志田 泰盛 京都大学, 白眉センター, 助教 (60587591)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インド哲学 / テルグ文字 / SMART-GS / 聖典解釈学派 |
研究実績の概要 |
本研究では、音声の永遠性論証を主題とする『プラカラナ・パンチカー』第9章の文献実証的解明を大目標としており、原典の再校訂を起点とする。原典資料として、10本の写本と転写(マラヤラム文字7種、テルグ文字1種、ナーガリー文字2種)に加えて、数種の先行刊本のデータも予備調査段階で蒐集済であり、またそのうち5種の資料の校合を終えていたことを踏まえ、平成26年度では残る写本の校合及び内容分析を主眼として研究を進めた。 内容分析については、客員研究先として赴任したハーバード大学南アジア学研究室において共同担当した授業で同章の一部をテキストとして取り上げ、校合済の箇所の精読分析を進めた。 一方、校合作業についてはマラヤラム文字、テルグ文字の資料を随時校合している。特に、テルグ文字写本については、翻刻支援ソフトSMART-GSを活用して翻刻を推進している。 また、内容の分析にあたっては著者シャーリカナータの周辺の思想家、すなわちバッタ・ジャヤンタ、ヴァーチャスパティミシュラ(共にニャーヤ学派)、スチャリタミシュラ(バッタ派)らの著作内容との比較は不可欠であるが、これらの思想家間の相対年代も確定されていないため、その思想交流に関する吟味も必要である。今年度は、スチャリタミシュラのタマス(闇)論と『プラカラナ・パンチカー』との影響関係について吟味した他、シヴァーディティヤの年代論についても先行研究を整理した上で、新知見を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 『プラカラナ・パンチカー』第9章については客員研究先の授業で取り上げ、その前主張部分を精読したことで、随所の問題点を浮き彫りにすることができた。 2) 一方、写本の校合についてはマラヤラム文字、テルグ文字とも資料の可読性の問題もあり、当初の予定に比べて校合の進度は若干遅れている。 3) 周辺思想家との思想交流の分析については、タマス(闇)をめぐる議論をスチャリタミシュラの未校訂文献と比較することで、新知見を得て発表した(2014年9月「インド哲学諸派における<存在>をめぐる議論の解明」2014年度合同研究会)。また、シヴァーディティヤの年代に関する新知見については、日本印度学仏教学会第65回学術大会(2014年8月)で口頭発表した上で、英文論文が『印度學佛教學研究』第63巻第3号(2015年3月)に刊行された。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、『プラカラナ・パンチカー』第9章後半の精読と、残る南インド文字写本の校合が当面の課題となる。特に、判読の難しい箇所を多く含むテルグ文字写本の翻刻については、解読ポリシーを明示化するためにも、代表者による校合が一通り終わった段階で、複数の研究者によるクロスチェックが望ましく、Harunaga Isaacson教授(ハンブルク大学)の来日期間に合わせた共同研究、もしくはDiwakar Acharya教授(京都大学)との共同研究会を企画し校訂の精度を高める。 さらにPrPの祖本形態の推定に向けて、まずは韻文と散文が混在する同文献第11章の散文中から韻文を抽出した黒田[1978]の手法を、本研究のターゲットである第9章にも適用する。また、章の切れ目において写本間の親子関係が断絶する箇所の有無を定量的に確認するための基礎データを作るために、第9章以外の各章の冒頭と末尾の数十単語に限定して校合を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備調査段階では未校合であった南インド系文字の写本6本の中には、当初の予想以上に判読の難しい写本が複数存在したため、代表者自身による校合が遅れている。そのため、校合のチェックも兼ねた共同研究会の開催に伴う研究者の招聘が次年度に繰り越されたことにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
テルグ文字の解読のために、協働翻刻支援ソフトSMART-GSを使用しているが、このソフト自体昨年度に大幅な改良が加えられたため、翻刻の内容自体のクロスチェックを兼ねた研究会の開催に先立ち、新しいヴァージョンへの対応のために開発者との研究会が必要であり、これらの研究会のために次年度使用額を充てる計画である。
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