最終年度であるH30年度は、2018年7月にヴァンクーヴァーで開催された第17回世界サンスクリット会議において、"Editorial Notes on the Ninth Chapter of the Prakaranapancika" というタイトルで発表した。この発表の概要として、まず、一般に流布しているBenares Hindu University から出版されたテキストの校訂方針が、先行刊本及び南インドのテルグ文字写本の折衷的なものである点、及び、この校訂方針がChowkhambaから出版された先行刊本のそれと対照的である点、すなわち、さらに先行する雑誌Pandit上の校訂テキストを忠実に再現しているChowkhamba版の校訂的態度と正反対である点を明らかにした。 また、写本間の異読比較により、大きく北インド系と南インド系のヴァージョンに二分できることを示し、さらに、本研究で扱ったテルグ文字資料特有の表記体系の点などから、南インド系のヴァージョンの中でも、テルグ文字写本がより古い読みを保持している可能性を示唆する文献証拠を複数提示した。 また、2018年6月に上海交通大学で開催された科学史与科学文化研究院2018夏至会議においては、本研究課題の成果を含む形で、テキストの再構築というテーマで、古典文献学の方法論とその実例について紹介する内容の講演を行った。 本研究課題は、Prakaranapancikaのうち音声の永遠性論証を主題とする第9章の批判校訂を主眼とするものであるが、総事業期間における成果として、当初の予想以上の数の一次資料を入手できたことにより、基礎的校合に多くのリソースを割かざるをえず、そのため、校訂テキストや翻訳といった成果公開は遅れているが、写本系統の推定結果を最終年度に国際学会で発表できた点で、当初の目的の一つの大きな柱を達成できたと考えられる。
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