本年度は、AOTS(海外技術者研修協会)の技術研修生(以下、研修生)向けの日本語教育実践に関する研究の中で、昨年度行ったAOTSの理念と実践に関する研究をふまえ、特に実践面に焦点をあてた研究を行った。AOTSの作成した教科書の文型の変遷と特徴、教師養成・研修に関して考察を深め、論文にまとめている。 また、最終年度として、本研究課題をつらぬく特色・学術的意義として挙げた以下の4点を明らかにすることを目指した。すなわち、①戦後の日本語教育界全体をつらぬく分析、②政策との関連をふまえた上での日本語教育の教育的課題に対する分析、③日本語教育史の「断絶論」に対する立論のための実証研究、④現在の日本語教育の「発展」につながる基盤が作られた時代の解明、である。 具体的な課題として行ったことは、文部省官僚及び大学教員として戦後の日本語教育の政策・実践の基盤づくりを中心的に行った釘本久春の思想と実践を明らかにすることである。釘本は、戦前から戦後の1955年まで文部省の国語・日本語教育施策に関わり、「優秀な」官僚として活躍した。その手腕は、大学教員となった後も発揮され、日本語教育を社会的に認知させることを目指した。釘本自身は、戦前の日本語教育の方法的先行性や成果を大きく評価し、戦後もそれを認知させようとしていた。この釘本に関する研究については、昨年度より行っていた資料収集をもとに、釘本研究を行う研究者と情報交換をしつつ、論文を執筆している。
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