前年度に引き続き、窒素原子を介して2つのラジカルが相互作用するビラジカル分子の合成と構造・物性の解明をおこなった。このような分子の例として、トリアリールアミンの2つのアリール基を2、6位にt-ブチル基を有するフェノキシラジカルで置換した分子を合成した。興味深いことに、この分子は室温において電子スピン共鳴(ESR)信号が観測されず、一方でシャープなNMRシグナルが観測された。また、単結晶X線構造解析から、この分子は中央の窒素周りにおいて二本の等価な多重結合が形成されていることが明らかになった。さらに、この分子は最高被占軌道(HOMO)が非結合性軌道であることが密度汎関数法計算および単純なヒュッケル分子軌道計算から示唆された。本研究結果は、閉殻電子状態と開殻電子状態のエネルギー差が極めて接近した分子の開発指針を与えるものであると考えられる。 また、フェノキシラジカルを他のラジカルで置き換えた分子についても検討をおこなった。トリフェニルアミン、および9-フェニルカルバゾールに2つのジシアノメチルラジカルを導入した分子を発生させたところ、分子間でラジカル部位同士が連結し、自発的に環状分子が生成することが明らかになった。生成した環状分子は、熱および力学的刺激(擦り潰し)によって分子間を結ぶC-C結合が開裂することが電子スピン共鳴によって確認された。さらに、この結合開裂によって色調が変化するクロミズム特性が確認された。
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