遺伝子ネットワーク系に対する受動性に基づくロバスト性解析理論の構築を進め,(1)3年間の成果を制御理論分野の基礎理論としてまとめた.また,(2)前年度27年度に発見した「ネットワークの規模の拡大により消散性能が向上するシステム」の解析を進め,より一般のシステムに理論を拡張した.また,(3)まとめた基礎理論を遺伝子ネットワーク系解析以外の他分野(電力系統の周波数制御問題など)へ展開する試みをおこなった.以下にこれらの詳細を示す. (1)不確かさを有する非線形ネットワーク系に対して,平衡点の存在範囲を見積もる方法論を与えた.そして,その平衡点の安定性・不安定性の判別条件,受動性の性質を利用したロバスト性解析理論を提案した. (2)複数種類の生体分子が拡散接続するネットワーク系において,接続する種類の増加のもとでその外乱抑制性能が向上する現象に着目しその解析をおこなった.この現象を生じる生体分子は受動性を強めた性質(強受動性)を持つことに着目し,同様の現象を生じる系のクラスを一般化することに成功した.一般化により,他分野での現象解析に利用すること,または動的システムの分散的な設計に利用することが期待される. (3)受動性に基づく解析理論を他分野へ展開した.既存の電力系統モデルを解析したところ,受動性の性質をもつことを発見し,系統の周波数制御問題をより効果的に解決できる可能性があることを示した.さらなる展開のためには,モデルでは考慮していない電力の飽和など現実的な非線形性をどのように理論に組み込むか,受動性の性質をもつ制御器の設計と実装をどのように行なうかなどが考えられる.
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