近年,計算・通信技術の発達により,工学が扱う対象は飛躍的に大規模化している.例えば,電力ネットワークはその代表例であり,東京電力管内においては,約200か所の発電施設と約2000万世帯の需要家からなる電力系統を常に安定して運用することが求められている.このような背景のもと,大規模システムを系統的にとり扱うための解析・制御手法開発の重要性は,今後とも日増しに高まることが予想される. 本研究では,申請者がこれまでに開発してきたモデル低次元化手法を応用することによって,ネットワークを構成するサブシステムの相互干渉情報を効率よく抽出し,その情報を処理する基幹制御器と個々のサブシステムを制御する分散制御器が階層的に接続された制御系を設計している. 本研究では,制御系設計において不可欠な情報を抽出するツールとして,モデル低次元化の理論を応用することを考えている.このようにして得られる分散階層制御系は,従来の集中的な制御系と比較して,少ない計算・通信コストにより実装が可能となる.また,サブシステムの変化や個々の分散制御器の故障に対してロバストな制御系となる. また,この分散階層制御系設計手法に基づき,コントローラレトロフィット手法(コントローラの分散的な増改築手法)に関する理論的な基盤を構築している.このレトロフィット制御手法は,システム制御理論分野において難しい問題として知られる,特別な構造をもつ制御系設計問題に対して,ひとつの解を与える基礎理論となり得る.
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