硬骨魚類では女性ホルモンであるエストロゲンが雌化・卵巣の分化に重要であると考えられている。しかし、エストロゲンの卵巣分化における機能については不明な点が多い。本研究では硬骨魚類であるメダカを用いてエストロゲンの卵巣分化における機能を明らかにすることを目的とした。エストロゲン合成に必須のステロイド代謝酵素である卵巣型芳香化酵素の機能が欠損しエストロゲンが合成できない変異メダカでは遺伝的雌(XX)個体の生殖腺は遺伝的性に従って卵巣に分化した。このことからメダカではエストロゲンは初期卵巣分化には関与しないことが明らかになった。一方、孵化後3か月の成魚サイズの個体では卵濾胞は卵黄形成期のサイズまで発達していたが卵黄の蓄積は見られず、顆粒膜細胞層の異常増殖が観察された。その後、卵濾胞の崩壊が観察され、孵化後6か月の個体では精巣組織が観察された。またこの成体卵巣の精巣への性転換過程を組織的に解析した結果、生殖幹細胞およびそれを取り囲む性的に未分化な体細胞が雄分化し、新たに精巣組織が構築されることが明らかとなった。次に、トランスクリプトーム解析により卵巣崩壊過程の遺伝子発現の網羅的な比較を行った。その結果、アンドロゲン合成に関わると考えられる複数のステロイド代謝酵素の発現が上昇することが示された。これらの結果から、メダカでは生殖腺は性的な可塑性を有しており、エストロゲンによって生殖腺の卵巣への分化が維持されていること、生殖腺中のエストロゲン量の低下、またはエストロゲン量とアンドロゲン量のバランスの変化により卵巣組織が退化し精巣が形成されることが示された。
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