ヒライボLithophyllum okamuraeは,日本で2つの品種f. okamuraeとf. angularisが記載されている。この両品種のタイプ種からの配列決定を行ったところ,f. okamuraeではLSUの部分配列のみ決定でき,f. angularisでは,psbAとLSUが決定できた。いずれの配列も日本のタイプ産地の標本の配列と一致し,両品種に種レベルの遺伝的変異が認められた。さらに,両品種を区別可能な形態も見つかったため,それぞれ別種が適当と確認できた。 ミナミイシモL. kotschyanumは,分子系統解析によると日本では2種に相当することが分かったが,これまで記載された品種のタイプ標本のLSU配列とは一致しなかった。推定種1種は,L. kaiseriのisolectotypeとpsbA,rbcL配列が一致し,現段階ではこの種と同定した。他1種は,形態でも区別できたため,新種と確認した。 昨年度までに調査した瀬戸内海西部から高知県南西岸までの16地点のサンプルについて,葉緑体のpsbAのDNA配列を決定し,これらと,昨年度までに決定した日本のタイプ産地や他の地域の配列を合わせて系統解析を行った。その結果,調査した西日本の温帯域で日本新産種2種を含む11属21種と,多くの未同定種の存在を確認した。 豊後水道では,近年,宇和島市沿岸で温帯性藻場が衰退し,熱帯性のホンダワラ類が確認された。さらに南の愛南町以南では,高被度のサンゴ群集が特徴的な磯焼け域が見られた。しかし,おもに南西諸島に分布する無節サンゴモは,愛南町以南から出現した。これらの無節サンゴモは本州太平洋岸中・南部でも確認されている上,宇和島市沿岸も生育可能な水温範囲にあるが,他の海藻類に比べて成長が非常に遅く,分散も遅いため,近年,藻場の衰退が進んだこの海域では確認できなかったと考えられる。
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