研究課題/領域番号 |
26860294
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
奥田 賢一 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70624245)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 黄色ブドウ球菌 / 感染症 / 化合物スクリーニング |
研究実績の概要 |
細菌が固体表面または気液界面において形成する集合体はバイオフィルムと呼ばれる。バイオフィルム形成に起因する感染症はバイオフィルム感染症と呼ばれ、広範囲の診療科で問題となっている。各種医療用デバイスの表面にバイオフィルムが形成されると、局所感染はもとより、持続的に排菌が起こることで全身性の感染症へと進行する危険性が高い。また、バイオフィルムを形成した細菌は抗菌薬や生体防御機構に対して高い耐性を示すため難治性となる。バイオフィルム感染症は患者へ多大な負担を与えるだけでなく、治療期間の延長や医療費の増大にもつながる問題であり、根本的な治療法・予防法の開発が急務である。申請者はこれまでに、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害する低分子化合物ABC-JK1を取得した。ABC-JK1によるバイオフィルム形成阻害機序を解明を目指し、平成27年度は以下の内容に関して研究を行った。 ①黄色ブドウ球菌遺伝子破壊株の作製と機能評価:ABC-JK1存在下で発現が変動した遺伝子やABC-JK1と相互作用を示すタンパク質をコードする遺伝子に関して、遺伝子破壊株を作製した。その結果、バイオフィルム形成能やABC-JK1感受性に関与すると思われる遺伝子を複数同定した。 ②構造活性相関研究:化合物ライブラリーに含まれるABC-JK1の構造類縁体のバイオフィルム形成阻害活性を測定し、ABC-JK1の構造において活性に重要な部位を明らかにした。 ③抗菌薬感受性に与える影響:ABC-JK1が抗菌薬に対する黄色ブドウ球菌の感受性に与える影響を評価した。ABC-JK1存在下では、ある種の抗菌薬に対する感受性が顕著に上昇することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに得られた知見をもとに複数の遺伝子破壊株を作製し、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成やABC-JK1のバイオフィルム形成阻害活性に関与すると思われる遺伝子を同定することができた。また、構造活性相関研究により、ABC-JK1の活性において重要な構造を明らかにすることができた。これらの成果はABC-JK1の作用機序を解明する上で非常に重要であり、研究が当初の計画に沿って順調に進展しているといえる。当初の研究計画には含まれていなかったが、ABC-JK1とは異なる構造を有するバイオフィルム形成阻害物質であるABC-JK2に関しても同様の手法を用いて作用機序の解析が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成やABC-JK1の活性に関与することが示唆された遺伝子に関してさらに詳細な機能評価を行い、ABC-JK1の作用機序の解明を目指す。具体的には、プラスミドを用いて黄色ブドウ球菌内で各遺伝子を発現させ、遺伝子破壊株への相補や野生株での過剰発現を行う。また、大腸菌内での大量発現系を構築し、精製タンパク質を用いたin vitroでの機能評価を行う。さらに、培養細胞を用いてABC-JK1の細胞毒性評価を行い、感染モデルを用いてin vivoにおけるバイオフィルム形成阻害活性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画が順調に進捗し、消耗品費や委託費の使用額が当初の計画より低額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
主として消耗品費として使用する予定である。関連分野における最新の研究動向の調査や研究成果を広く発信する目的で、国際・国内学会旅費や論文投稿料としても使用する計画である。
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