心不全は現代社会において依然予後不良な疾患であり、その克服のためには、従来の薬物治療薬に続く新たな治療法の探索が急務である。我々は、圧負荷心不全モデルマウスを対象に、高速シークエンサー解析を用いて、発現解析及び定量的エピゲノム解析を行い、創薬対象となり得る分子探索を試みた。マウス圧負荷心臓組織を対象に、活性化エピゲノムマークであるH3K4me3 ChIPシークエンス・RNAシークエンス解析、及びこれらオミクスデータを統合することによる分子探索を行った。次いで、同定分子の機能解析をマウス圧負荷心不全組織、培養細胞を用いて行った。結果、慢性心不全において活性化エピゲノムマークH3K4me3が誘導される45個の遺伝子を同定した。機能アノテーションクラスタリングにより、これら遺伝子の機能は細胞外マトリックス産生等線維化に有意に相関していた。これら遺伝子集団のなかで、心血管病態において過去の報告がない転写因子を見出した。本因子は圧負荷心において間質細胞に発現し、培養細胞を用いた解析により、心臓線維芽細胞の一部のポピュレーションに発現していること、線維芽細胞の反応性増殖に関与していることが明らかとなった。更にメカニズムを解明するためノックダウンとRNAシークエンスを組み合わせ、下流遺伝子を探索したところ、細胞周期に関与する一連の遺伝子の発現低下を認めた。高速シークエンサーを用いた解析により線維芽細胞の反応性増殖の制御因子を同定し、これらオミクス解析が分子探索において有用であることが示唆された。
|