本研究の目的は、芸術制作における物体化された思考プロセスを明らかにすることにある。研究は理論的解明と作品の具体的分析の二面で行う。最終年度にあたる平成29年度は、この物体化された思考における「身体」の重要性に着目し、新たに以下2つの具体的事例について研究を開始し、成果の予備的発表を行った。また、この4年の研究成果を含むこれまでの研究成果を単著(図書)として出版する作業に着手した。 (1)論文「ノー・フューチャー――『ドッグマンノーライフ』」のネット公開。世界的に著名な演劇カンパニー・チェルフィッチュの看板俳優として知られた山縣太一の主宰するオフィスマウンテンの第二作『ドッグマンノーライフ』を、複数の身体間で影響を与えあう、身振りと言語と記憶の錯綜した構造による思考システムとして精密に記述した。本論文は、山縣本人を含めて大きな反応があり、それらのコメントを踏まえて改訂した上で単著内の一章として発表予定である。 (2)研究「荒川+ギンズ他による酩酊の分析的使用、『例えば』」の口頭発表。心身を組み替える特異な建築的実践で知られる荒川修作+マドリン・ギンズによる1971年の映画作品『例えば』を、言葉と身体を横断して行われる異なる思考様式の発明の試みとして分析した。本研究は関西大学東西学術研究所身体論研究班主催で行われたシンポジウム「映画『For Example』をめぐって」(東洋大学)における招待講演として発表された。この発表は、追加研究のうえ平成30年度以降に論文として発表予定である。 (3)この4年間の研究課題の成果は、以前の研究成果と合わせて、単著(図書)として東京大学出版会から平成30年度中に出版予定である。現在、理論的考察の中心をなす序章の執筆を終え、平成29年度夏のニューヨークでの追加調査にもとづき、具体的な作品分析を行う各章の改訂を進めている。
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