研究課題
代謝調節因子Lipin1は、細胞内局在を変化させることで、脂質を蓄積することも分解することもできるユニークなタンパク質である。一方で、Lipin1の対極的な脂質代謝機能を使い分ける機構は不明であるが、Lipin1結合因子がLipin1の細胞内局在を決定することで、Lipin1のもつ代謝機能を制御していることが予測される。本研究では、細胞内で実際に生じているタンパク質間相互作用を解析できる手法である「細胞内光クロスリンク法」を駆使して、Lipin1結合因子を網羅的に探索する。そして、Lipin1の脂質分解機能を高めるLipin1結合因子を利用することで、肥満解消に向けた新しい治療戦略を提唱することを目指す。「細胞内光クロスリンク法」は、①細胞内で光クロスリンカーとして働く非天然型アミノ酸を、研究対象とするタンパク質に対して部位特異的に導入し、②細胞に光を照射することで相互作用しているタンパク質との間に共有結合を形成させ、③安定化した複合体を細胞より抽出・精製し、その構成成分をWestern Blotもしくは質量分析により解析する手法である。本研究では、Lipin1タンパク質内の核移行シグナル(NLS)に結合する因子を探索するために、その周辺配列でクロスリンクが起こる可能性がある8箇所を選定し、それぞれに非天然型アミノ酸を導入したFLAGタグ融合変異型Lipin1を作製した。そして、作製した変異型Lipin1の発現量をWestern Blotで調べたところ、全ての変異型で十分な発現量を検出できた。次にこれらの変異型Lipin1を293 c18細胞に発現させ、抗FLAG抗体による免疫沈降を行った。Western Blotで全ての変異型Lipin1のバンドが観察され、そのうちいくつの変異型でLipin1とクロスリンクしたと予測されるバンドを確認できた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、Lipin1の細胞内局在を制御するLipin1結合因子の同定、特にLipin1を核局在へと導くような因子を探索することである。この目的を達成するために本研究では、Lipin1のNLSに直接結合するタンパク質を同定する手法として、細胞内光クロスリンク法を使った。この方法のメリットは、タンパク質内の特定部位で結合する因子を共有結合によって繋ぎ止めることで同定できる点である。一方で、非天然型アミノ酸の導入、光を使ったクロスリンク法、十分なタンパク質量の確保などといった様々な条件設定が難しいという点がある。現在、このような難関ポイントをすでに克服しており、今後銀染色法によるLipin1タンパク質の精製が確認後、質量分析が行える状態である。以上のことから、おおむね順調に進展している。
次年度は、細胞内光クロスリンク法でLipin1とクロスリンクを形成している因子を質量分析で同定し、この因子がLipin1の細胞内局在にどのような影響を与えるかを調べていく。具合的には、同定した因子がLipin1と実際に相互作用しているか検証するため、抗FLAG抗体による免疫沈降後、同定した因子の特異的抗体を用いてWestern Blotにより解析する。次に、Lipin1との相互作用が確認できた因子について、その相互作用因子のcDNAを用いた強制発現実験やsiRNAによるノックダウン実験により、Lipin1の細胞内局在への変化を免疫蛍光染色法などで調べる。さらに、ルシフェラーゼアッセイによる転写活性化能の測定などを通じて、核内Lipin1がもつ機能について評価する。なお、Lipin1の核局在に影響する因子が見出せなかった場合は、Lipin1の細胞質局在に影響するかに着目する。すなわち、Lipin1を細胞質に局在させる因子の発現を阻害することで、細胞内脂質を減少させることができるか否かを考察する。
交付された助成金のほとんどを使用した。残った助成金は小額(1,395円)のため、次年度の助成金と合わせて使用する方が必要な試薬類の購入が可能となると考え、繰り越すことにした。
本研究を遂行するにあたり、遺伝子工学、培養用試薬・器具等を必要とするため、それぞれの購入にあてることにする。また本研究の成果を発表するために学会出張経費、ならびに本研究の推進に必要な調査・情報収集のための出張旅費に使用する。
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J Hepatol.
巻: Feb ページ: 印刷中
10.1016/j.jhep.2015.01.037
Arterioscler Thromb Vasc Biol.
巻: 34 ページ: 1531-1538
10.1161/ATVBAHA.114.303818