本研究は、談話内における指示詞運用の歴史的変化を対象としている。知識の導入先の切り替えをいかなるタイミングで行うかという心的処理の考えを、古典語の指示詞研究に取り入れて考察を行った。この歴史的変化には、〈聞き手への配慮〉の言語化という中世後期に生じた日本語表現全般の変化があるという点についても述べた。 (1)記憶を指示するような非直示用法において、ソ系列の指示詞とア系列の指示詞が使い分けられる要因を示した。(2) 指示語と不定語との類似点、相違点に着目し、指示詞ソの指示方策に関して、空欄性という点から考察を行った。これに合わせて、中世期の抄物に関して、指示語と不定語の用例を一部データ化した。
|