本研究は,高強度コンクリートで問題となっている自己収縮によって若材齢に生じるひび割れを低減する手法の一つとして,膨張材及び収縮低減剤の作用機構の解明を目的として実施した。 膨張材等を混和したコンクリートにおいて,自己収縮ひずみは,自己乾燥による収縮駆動力と膨張性物質による膨張圧が同時に作用する状態になっている。そのため,本研究では収縮駆動力と膨張圧を,各種の実験値を使用して分離する手法をとった。コンクリートの収縮メカニズムの一つに水和圧理論があり,これはセメント硬化体の収縮駆動力は,セメント硬化体表面に吸着した水分の吸着厚さによって決定するというものである。水分の吸着厚さはセメント硬化体内の質量含水率と比表面積より導出が可能であり,さらに比表面積はセメント硬化体の結合水量と高い相関を有していることから,本研究では,質量含水率と結合水量の経時変化を得ることで,同一の吸着厚さと考えられる状態でのひずみ量を比較することで,膨張材による膨張ひずみ成分を抽出した。 同時に,セメント硬化体内で生成される膨張圧を有する物質(水酸化カルシウム,エトリンガイト)の経時変化を実験的に取得し,上述の膨張ひずみ成分との関係を考察したところ,材齢1日以後の膨張圧は水酸化カルシウムと高い相関を有していることが明らかになった。このことから,ある程度硬化した後の膨張は水酸化カルシウムの生成量を調整することによって制御可能であると考えられた。一方で,材齢1日以前の自己収縮挙動についてはエトリンガイトや剛性の発現等をさらに高精度で取得する必要があることが課題として挙げられた。 また,膨張材と収縮低減剤を併用した場合には,収縮低減の相乗効果が得られる場合があることが知られているが,温度環境によって効果の程度に差異が現れること,この差異はアレニウス則による有効材齢の考え方では説明ができないことを明らかにした。
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