脳内電気刺激法、電気損傷法や吸引法などによる行動の生理心理学的機構の解明は、その方法論の比躍的革新のせいもあって近年長足の進歩を示し、生得性行動や学習性の行動の発現とその維持に関する脳の機能がしだいに明瞭となりつつある。しかし、現在の時点における最善の技法とみなされている脳内刺入微小電極法は、そのモニタ変法においては測定したニューロンの同定の困難性が、またその損傷変法においては再現性の欠除、個体差による損傷部位の変動性が大などのきわめておおきな欠点を本質的に持っており、これらはともに容易には解決できない根本的な欠陥をかかえているといえる。 これと対照的な薬物の脳内微量注入の技術は、最近の技術的進歩により、ようやく身近かのものとなってきつつあるが、液体の注入という本質的な制約により、極微な世界での効果を検出しようとする今日の生理心理学的領域の要請には根本的には対応し得ないことがあきらかとなってきた。 本研究においては、ネズミなどの小型哺乳動物の脳内に半導体微小電極を刺入し、電子流の操作によってその尖端部を熱したり冷却することによって脳内細胞の活動を一過的にあるいは非可逆的に制御し得る装置の開発とその制御システムの開発とを、その目的としている。 本年度の主たる知見は以下の通りである。 (1) 微小電極先端部を直径0.17mmまで細くすることができ、これによって刺入部位の限定化が前年度よりも進歩した。 (2) また上記条件では、前年度においては不可逆的な温度である45°以上にすることができなかったが、本年度においてはこれが可能となった。 (3) しかしクーリングの場合では、この電極を用いると脳内の温度は充分には低下せず、前年度の太い電極が必要であった。
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