補酵素(担体型)を必要とする酵素反応を連続自動化するためには、補酵素の高分子化と、補酵素再生用の酵素反応との共役が必要である。当研究室では、ポリエチレングリコール結合NAD(PEG-NAD)が高い補酵素活性を有し、2酵素共役連続反応系に使用しうることを示してきた。とくに、耐熱性酵素であるThermus thermophilusのmalate dehydrogenaseとBacillus stearothermophilusのlactate dehydrogenaseがPEG-NADに対して高い活性を示し、かつ非常に安定であることが明らかとなった。本年度は、酵素リアクターの長期安定運転の条件を確立するために、上記両耐熱性酵素とPEG-NADを用いた連続酵素反応を温度を変化させて行なった。本酵素リアクターによるピルビン酸からL-乳酸生成速度の半減期は、30、40、45および50°Cにおいて、それぞれ9.7、6.2、5.4、および3.6日であった。リアクター中の酵素およびPEG-NADの安定性を調べたところ、両酵素は安定に存在していたが、PEG-NADがやや不安定であった。また、緩衝液中での安定性はリアクター中のものとは異なっており、PEG-NADの場合、緩衝液中の方が安定であった。以上の結果より、温度および緩衝液等の条件を適宜設定することにより、高分子化NAD-耐熱性酵素系を用いた酵素リアクターの長期安定運転が可能であると結論できる。NADで成功した本システムを、もう一つの酸化還元補酵素であるNADPに拡大するために、ポリエチレングリコール結合NADP(PEG-NADP)を新たに合成した。その際、NADPの2′位のリン酸基が、合成反応の副反応に関与することを見出し、その問題点を解決することにより、従来報告されている高分子化NADPに比べてはるかに高い補酵素活性を有するPEG-NADPを得ることができた。PEG-NADPもPEG-NADと同様、2酵素共役連続反応系に使用しうることが確認されており、高分子化NAD(P)-耐熱性酵素系を用いる酵素リアクターの長期安定運転が可能になった。
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