研究概要 |
昭和60年度には以下の研究について所期の成果を得た。 1.ラット陰嚢加温が視床・視床下部ニューロンに及ぼす影響:視床の腹側基底核ニューロンで体表触刺激に応ずるものの大部分は、陰嚢の31-40℃の加温のある閾値温で、on-off的に放電を変化させ、同時に大脳皮質脳波の脱同期がおこる。視床・視床下部のいずれにおいても、陰嚢加温によって促進あるいは抑制されるニューロンは、脳波の脱同期をおこす侵害刺激によってもそれぞれ同様な促進と抑制を示した。陰嚢加温に応じないニューロンは侵害刺激にも影響されない。陰嚢加温によって脳波が脱同期している時期には、受容野刺激に対する視床ニューロンの応答が著しく増強される。深麻酔では、陰嚢加温の効果は消失する。 2.視床下部温度感受性ニューロンに及ぼすC【O_2】の影響:麻酔したラットに4.7.10%のC【O_2】を呼吸させると、視床下部ニューロンの約半数は放電頻度を増加させ、その傾向は温度感受性ニューロンで大である。しかしニューロンの温度特性には大きな変化は観られない。一方、脳切片標本ではC【O_2】は視床下部ニューロンの多くを抑制した。個体で見られるC【O_2】の体温下降効果は、呼吸ガスの化学受容器からの二次的な作用によるものと推察される。 3.ラットの唾液分泌に関する研究:麻酔ラットの直腸温があるレベル以上ならば、陰嚢,顔面、または視床下部の加温によって大量の唾液分泌がおこる。中枢と末梢の温度シグナルが統合されて唾液分泌をおこすことが明らかとなった。唾液分泌反射は味覚によっても侵害刺激によってもおこるが、体温の上昇はこれらいずれの反応にも促進的に作用している。さらに無麻酔ラットにおいて唾液塗布行動と、四肢伸展をおこす有効な脳領域を精査したところ、前者は後視床下部、後者は前視床下部であることが確認され、さらに研究を続行中である。
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