研究概要 |
膀胱癌由来培養細胞株KU-1より得られたモノクローナル抗体TBSN-2は膀胱癌由来細胞株あるいは膀胱癌摘出組織標本に対し特異性の高い反応性が認められ、さらに補体の存在下において強い殺細胞性が示された(佐々木、Keio J.Med.33,1984)。またヒト腎癌培養細胞株KU-2より得られたモノクローナル抗本RC-1は各種腎細胞癌に対し高い特異性を示したが、KU-2のクローン細胞間において免疫学的異質性が存在することが判明した(中村,Keio J.Med.35,1986)。各種インターフェロン(α.β.γ)は腎細胞癌細胞、前立腺癌細胞に対し増殖抑制効果を示し、その機序としてnatural killer細胞(NK)の活性化が考えられた(丸茂,日泌尿会誌.76巻,1986)。さらにインターフェロンの殺細胞能はeffecter細胞を予め培養することにより増強されることよりNK細胞の再利用が示された(丸茂,Keio J.Med.33,1984)。一方、他の免疫賦活動物質であるBCGは膀胱癌細胞に対し単球の存在下に著明なcytolilicおよびcytostaticな作用を示した(中村、KeioJ.Med.33,1984)。担癌患者血清中のサイトカインの定量によりその免疫状態の検討を試みたところ、腎癌および前立腺患者においてTumor necrosis factar(TNF)の高植を示す症例が認められた(中島,日本癌学会総会,1986)。病理組織学的癌の悪性度とその細胞核内DNA含量を検討すると、未分化の癌あるいは悪性度の高い癌細胞においてDNA含量の異常が強く認められ、腫瘍の増殖あるいは転移を予想する上でそのDNAの変化が重要であると考えられた(橘,日泌尿会誌,77巻,1986)。 以上の研究結果は、癌の増殖において宿主の環境因子が強く関与すると考えられ、また癌細胞に異質性が存在することから、これら複雑な細胞学的特性を定量的、多面的に捉える必要があることを示すものである。腎・尿路・性器癌の増殖抑制機構は宿主側因子と癌細胞の性状のバランスの変動とその修復機序の解明が今後の課題と考えられた。
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