研究課題
価値の問題は、今更いうまでもなく哲学上の重要な一問題として、絶えず論じられてきた。美が価値として取り上げられ、哲学的考察の対象とされてきたことは、プラトン以来の西洋哲学史が示す通りであり、近くは新カント派の哲学が主題的に論じている。勿論、近代の価値論には、自然科学的・実証主義的な思想傾向に対する批判的態度、或は経済学における価値という概念の重視などに対する哲学の側での自己防衛的態度などから生じてきたという面がないとはいえない。けれども人間存在にとって価値の問題は常に重要だったのであり、価値はその時代の多くの制約の中で、その時代の人間が守り、或は追求し続けてきたものに他ならない。美と芸術の問題を哲学的に考察する時、個々の具体的な現象についての歴史的・実証的研究が、その根底におかれねばならぬことはいうまでもないが、それら歴史的諸研究が価値問題を無視して成立たぬこともまた明白と言わねばならない。山岡泰造、佐々木丞平、太田孝彦、愛宕出らの各研究分担者は、芸術の歴史的・実証的研究を遂行しながら、それぞれの研究対象がいかなる価値意識に支えられて生まれたのかを明らかにすべく努力した。美術史研究が美術という、元来価値実現を目差して産出されたものの研究である以上、価値問題を度外視するわけにはいかないにも拘らず、これを殆ど取り上げることがなかったのは奇妙である。上記各分担者の研究は、客観的と称して没価値意識的な一般の研究傾向に対し、美術の歴史的研究が本来あるべき方向を探ろうとする試みと見做すことができよう。一方、吉岡健二郎、太田喬夫、上倉庸敬、加藤哲弘、篠原資明、北村清彦の各研究分担者は、現代における安易な価値の相対比の傾向に対し、主として今世紀の哲学者達の論を検討しつつ美的価値と芸術的価値の明確化に努めた。
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