種々の有用植物とそれらの近縁野生種のオルガネラDNAの変異を分析し、それぞれの種属内の系統関係と栽培種の起原を解明することを試みた。 1.イネ科には作物を含む族が7つある。この7族を代表する10属10種について葉緑体(ct)DNAの制限酵素分析を行い、これら族間の系統関係が従来の分類学的研究に基づくものと基本的に一致することを見出した。 2.コムギ、エギロプス両属の主要な種すべてを含む多数の系統について、ctDNAとミトコンドリア(mt)DNAの制限酵素分析、ctDNAの物理地図の比較、mtDNAのRFLP分析、葉緑体遺伝子rbcLの全構造の比較、などを行い、種間関係、種内分化、栽培種の細胞質の起原などを明らかにした。 3.ライムギ属5種とオオムギ属7種17亜種についてはctDNAの制限酵素分析と物理地図の比較、エンバク属19種についてはctDNAとmtDNAの制限酵素分析を行い、種間関係の解明及び栽培種の細胞質提供親の特定に成功した。 4.イネ属については、Aゲノムをもつ2倍性の4種66系統のctDNAの制限酵素分析を行い、栽培型の2種2亜種の起原に関し重要な新知見を得た。 5.マダケ属についてはmtDNAの制限酵素分析とPFLP分析を行い、13種22変種の系統関係と有用竹3種の種内分化について多くの知見を得た。 6.ヤマノイモ属の4種15クローンとバレイショ属の20種44クローンについてctDNAの制限酵素分析を行い、栽培種の起原と分化に関し新知見を得た。 7.サクラ属の11種についてctDNAの制限酵素分析を行い、これらの系統関係を推定し、ソメイヨシの母親がエドヒガンであることを証明した。 以上の研究から、多数の種属における細胞質ゲノムの系統関係と栽培種の細胞質提供親が解明できた。また、ctDNAに比べmtDNAの進化速度が早く、前者の変異は種間〜亜科間の、後者の変異は種内分化の解明に有用な手掛りを与えることが証明された。
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