本研究は変性に陥った脳組織が如何にして、最小の機能喪失をもって修復、治癒されうるか、その連続的修復機序を解明し、コントロールすべき至摘条件を求めることを目標としている。即ち、我々が浮腫性脳病巣を経時的に観察した結果から、壊死細胞を除去する喰細胞やグリア細胞の移動運動、浮腫液出現の機序、血液関門の消長等を胎児脳のそれと比較しつつ研究を進めている。 1.予定通り、虚血性脳病巣、有機水銀、3-APによって中毒性病巣を、またアレルギー性脳神経病巣を実験的に作成し、経時的に観察中。 2.ヒトと動物脳には広大な細胞外間隙があり、そこは血清とほぼ同性状の脈絡叢由来の液体で満たされている。 3.胎児脳内細胞の移動運動の生きている脳組織内での観察:母獣血清中に胎児脳割断面を落射蛍光顕微鏡下におき、映画が撮影された。試行錯誤の末、神経芽細胞の大脳皮質への活発な移動をキャッチ。 4.脳腫瘍でも常に細胞外液の充満する細胞外間隙がみられた。 5.病巣内の血管新生の血管鋳型法による観察:ほぼ細胞移動運動の静止した時点で脳内血管はくも膜下腔から伸展する。その際の血管は網状、輪状などの吻合、血管内中隔等々の特徴を示し、それは腫瘍内血管と極めて類似している。現在虚血性病巣の血管再生を検討中。 6.胎児脳における病巣修復の特異性について:元来、広い細胞外間隙をもつ胎児脳では成人脳と異なる特異な修復が認められた。即ち、喰細胞は本来の細胞外液中で移動し、修復された病巣は反応性細胞のみられない、即ち奇型となる、という極めて重要な知見を得た。 7.末梢神経浮腫病巣では、血管が有窓血管に変化し浮腫を生ずること、清掃細胞としての喰細胞と線維細胞との接触周皮細胞が浮腫と大きな関連を持つことなどを知った。
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