悪性腫瘍に対するヘマトポルフィリン誘導体(HpD)とアルゴン・ダイ・レーザーによる光線力学的治療法(PDT)の開発を、昭和57年、昭和58年、昭和59年の研究で得られた基礎的成果に基いて臨床症例を対象として行った。 治療条件の確立を目的として、HpDを2.5〜5.0mg/kg静注後、HpDが正常組織から大部分排泄されかつ腫瘍組織内で最も高い集積性を示す72時間後に、アルゴン・ダイ・レーザー光(波長・630nm、先端出力:200〜600mW)を経気管支鏡的にクォーツファイバーで導き病巣に照射した。経過観察中、経時的に経気管支鏡的擦過細胞診を行った。その結果、PDTによる細胞変化は照射20分後にまず細胞質に現れることが示された(細胞質膨化、空胞変性、異染性など)。4日後にはRepair cellが出現し修復課程をたどった。PDT効果は病巣において施行後かなり早期から認められることがわかった。PDT後に手術を施行した症例の組織学的考察から、照射した病巣が変性、壊死に陥ったことを確認した。早期中心型肺癌症例ではPDTのみで根治させる可能性があると考えられた。各症例の治療条件と治療効果の関連を検討した。 PDTはあくまでも局所療法であり、リンパ節転移のある進行癌症例での根治性は無いと考えられるが、PDTにより腫瘍性閉塞気管支を開口させ呼吸状態、全身状態の改善がはかれること、更に術前にPDTを施行して腫瘍表層浸潤病巣を退縮させることにより、切除不能と判定されていた症例で肺全摘が可能となること(拡大手術)、肺機能温存を目的とした切除範囲の縮小化が可能となること(縮小手術)が認められた。進行癌に対するPDTの有用性が示唆された。
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