本研究では異方性の競合するランダム磁性体及び交換相互作用の競合するランダム磁性体の基底状態を解明することを目的とした。 異方性の競合するランダム磁性体の物質としては【Fe_(1-x)】【Co_x】【Cl_2】・2【H_2】O(FCC2)【Fe_(1-x)】【Co_x】【Cl_2】(FCC)及び【Fe_(1-x)】【Co_x】【Br_2】(FCB)をとりあげた。FCC2における中性子散乱実験より、スピン成分間のカップリングが極めて小さいことが明らかにされた。このような理想的な系は上記物質が最初の例である。FCC2についてザブミリ波・強磁場中で行ったESR実験から、Co-rich反強磁性相において【Fe^(2+)】スピンの局在励起が見つかった。結果の解析よりFeスピンはCoスピンとかなり大きな角度をなしていることが分かった。FCC及びFCBについても同様な研究を行った。これらの結果は異方性の競合するランダム磁性体におけるスピン秩序や基底状態に関する重要な情報を与えている。 交換相互作用の競合するランダム磁性体の物質としては、準二次元強磁性体【Rb_2】Cr【Cl_4】と反強磁性体【Rb_2】Mn【Cl_4】との混晶をとりあげた。作製した混晶【Rb_2】【Mn_(1-x)】【Cr_x】【Cl_4】の単結晶を帯磁率やESRの方法でキャラクタライズした結果、このランダム系は準二次元XY型スピングラスの典型物質であることが分かった。二次元XY型スピングラスの物質はこれまで報告されておらず、これが最初の例である。Cr-rich濃度領域では温度を下げるにつれて常磁性→強磁性→スピングラスのリエントラントスピングラス(RSG)転移が観測された。NMRや中性子散乱実験より、ゼロ磁場冷却したときのSTG状態は強磁性的ドメインと、残りのスピンがゆるやかに方向を変える部分から成っていることが明らかになった。この結果は二次元XYスピングラスの基底状態に関する重要な情報を与えている。
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