研究概要 |
標記の研究課題について、本研究では投票者の党派性崩壊の研究を中心に主要な理論の検討と内外の調査資料の収集整理,分析を行ってきた。理論研究では、投票行動の社会集団理論と態度論的アプローチによって提起されてきた流動層仮説(floating voter hypotheses)を検討し、選挙の変動を引き起す投票行動の諸特徴を明らかにした。社会集団理論は投票者の社会的諸特徴や集団圧力の状態が党派的整合の状態にあるか交差圧力の状態にあるかという条件分析から選挙の変動を説明する。態度論的アプローチは個々の選挙に特有の刺激や党派的力が投票者の投票決定と政党選択の変化を引き起す短期的要因であると見なして投票者の動機パターンとの関連に分析の力点を置く。つまり、投票決定と政党選択のミクロ次元の要因と、そのアグリゲートなマクロ的特性としての投票率と投票分化が措定され、政党帰属態度がこの二つの次元の変動を接合する要因として重視される。どちらの理論も党派性を基準にし、それからの離脱によって投票行動の変化を捉え、ミクロ次元の変化がマクロな選挙過程の変動におよぼす影響を明らかにしようとしているのであって、両理論の差異は投票行動の変化に作用する要因の捉え方にあるといえる。しかし、1960年代後半以降の主要な調査結果が明らかにしていることは党派性そのものの崩壊傾向である。この傾向は党派性を基準にした流動層仮説の修正を余儀なくさせる。したがって、本研究は理論研究と並行して党派性崩壊の動向を実証的に明示し、その動向が選挙変動の理論構成に与える影響をあわせて追究した。すなわち、欧米諸国での政党帰属態度からの離脱Independentの増加,分割投票と、日本における無党派層の増加,棄権の恒常化,投票一貫性の崩壊を比較検討し、有権者構成の変化,無党派層の政治関心,党派性の世代的連続,政党投票から争点投票への移行などを選挙変動の理論構成に導入することを強調した。
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