ハレー彗星探査の成功によって、彗星塵に関する豊富な情報が得られた。これらに基いて、塵の起源・彗星中心核への塵の集積及び塵の流出等を詳しく調べられるようになった。ここでは、不均質塵モデル(汚れた氷塵)に基いて、様々の観測結果を解析した。(1)不均質媒質の光学定数の推定。膨大な組合せが可能な混合媒質の光学定数を理論的に求める手法として、不均質素材の平均誘電率を推定するマックスウエル・ガーネット(MG)混合則を応用した。その正当性を調べるために水とアンモニアの混合氷系の光学定数について、室内測定値と理論計算値との比較を行い良い一致をみた。(2)MG則に基いて、汚れた氷塵の太陽系内における平衡温度を定めた。不純物による可視光吸収量の増加によって、汚れた氷塵は純氷塵よりも高温となる。バウエル彗星におけるOH分子の高い生成率の源として、高温化した汚れた氷塵を想定し、観測量の説明に成功した。(3)高温になった汚れた氷塵は、彗星中心核から拡散できる距離が短い。このため、中心核の周りに拡がる氷塵のカサは狭い。汚れた氷塵モデルを使うと、1天文単位以内に入った彗星が持つ氷塵のカサの拡がりは100キロメートル程度にしかならない。このため、地上観測によって、この氷塵を検出することが難しいことを示した。(4)また汚れた氷塵は光の反射能が低くなり、暗くみえる。ところが、氷成分が昇華するにつれて、不純物(主に金属物質)の相対比が高まり、塵の光反射能が増加する。この点に着目して、彗星から放出された汚れた氷塵の太陽系内での光反射能の時間変化を、塵の運動と併せて論じた。その結果、太陽から離れた遠方の低温領域にある汚れた暗い氷塵が、ポインティング・ロバートソン効果を受けつつ太陽に近づくにつれて、光反射能の高い明るい塵に変化していく様子が示された。以上のように不均質塵モデルが種々の観測事実を説明するうえで有効であることが判った。
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