研究概要 |
犬の乳腺腫瘍34例の細胞質エストロジェン,プロジェステロンレセプタ-(ER,PR)を測定し、病理織織像および種々の臨床的側面との関連を検討した。その結果、ERの陽性率(結合部位数2fmol/mg protein以上)は64.7%で、その平均結合部位数は8.8、解離定数は平均1.17×【10^(-9)】Mであった。PRの陽性率(5fmol/mg protein以上)は71.0%で、その結合部位数および解離定数は平均24.3および2.15×【10^(-9)】Mであった。またER(+)・PR(+)は58%で、ER(+)例の90%がPR(+)を示した。これらの腫瘍中、良性腫瘍が35.1%、悪性腫瘍が64.9%であり、上皮系腫瘍は75.7%を占めた。良性腫瘍のER(+)とPR(+)はそれぞれ76.9%,90.9%と悪性腫瘍の58.3%,60.9%を大きく上回った。これらの結果は、従来のヒト乳腺腫瘍のレセプター動態とほぼ同様であり、犬の乳腺腫瘍も性ホルモンに対する強い依存性があり、内分秘療法も十分効を奏することが示唆された。一方、腫瘍周囲の乳腺組織はしばしば過形成を呈しており、そのレセプター動態が腫瘍と大きく異っており、発癌との関連から詳細な検討が必要であった。そこで第二実験として、犬の17例の乳腺腫瘍とその周囲組織のレセプターを比較した。同時に、その対照として、正常な性周期を示す犬の乳腺組織を14例採取し、そのレセプターを測定した。その結果、腫瘍のレセプター陽性率等は前実験と同様であった。腫瘍の周囲組織は必ずしも過形成を示していなかったが、前実験と同様、ERの陽性率は高いのに対し、PRはきわめて低値を示した。また、これらの値は正常な乳腺組織とほぼ同様であったことから、腫瘍と非腫瘍乳腺との最も大きな差がPRの結合部位数であることが示された。さらに、正常犬乳腺では、ERがPRを誘導するという従来の説が、必ずしもあてはまらないことが示唆され、これらについては今後群細な検討が必要である。
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