研究概要 |
顎口腔領域悪性腫瘍の術後の言語、咀嚼などの障害の治療に顎補綴物は大変有効な手段であるが、無歯顎で半側以上の広範囲切除を受けた症例などに対する顎補綴は困難であることが多く、このような症例の顎補綴物の維持、安定をはかることは術後のリハビリテーションの重要な課題となっている。そこでわれわれは前述のような顎補綴難症例に対して緻密質ハイドロキシアパタイト金属複合体人工歯根を開発、応用し、維持、安定の良い顎補綴物を製作し、悪性腫瘍治療後の口腔機能障害者の早期の社会復帰をはかるために本研究を行っている。 本年度(昭和61年度)は、昭和60年度に開発した上顎用の人工歯根(円盤状で、サンドウィッチタイプ,φ7mm,厚さ2mm,ネジ止式,金属部はOPアンカーアタッチメントタイプ)、下顎用の人工歯根(円筒状,金属部はOPアンカータイプ,φ7mm)ならびに、上下顎兼用の2ピースタイプの人工歯根を実験動物に埋入し、基礎的研究を行った。現在までの観察では、歯槽力内に埋入された人工歯根は周囲骨と直接、結合し、骨内に安定した状態で植立していることが明らかにされた。また埋入後、人工歯根の上部構造として金属冠を装着し、咬合負担を加えたものでも、人工歯根は周囲骨と直接、結合し、骨植も良好であり、順調な経過を示した。 以上の基礎的研究の成果を踏まえて、昭和61年11月より、2ピースタイプの人工歯根の臨床応用を開始した。本材の埋入部位は主に上下顎の第小臼歯部間であるが、下顎の【5!~】〜【7!~】間でも歯槽頂から下顎管までの間に充分な骨質があれば、埋入を行っている。上部構造の製作は、人工歯根埋入後、約3カ月後に開始している。今後、さらに症例を増し、歯科補綴学な検討も加えていく予定である。上部構造装着後の人工歯根周囲の骨改造の解明、従来と異る新たな補綴学の確立が重要と思れる。
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