研究概要 |
本研究の目的は発がん遺伝子の一種であるC-Ha-ras遺伝子の遺伝子産物に対する抗体を作成し、その抗体をがんの診断に応用することである。C-Ha-w・s遺伝子産物は、その遺伝子を化学合成し、大腸菌で発現させて大量に得ることにし、膀胱がん,肺がん,腎盂がん,正常細胞が有する4種類の遺伝子を合成した。これらは、コドン12番目あるいは61番目に点突然変異を有する。合成遺伝子を含むプラスミドで大腸菌をトランスホームしたところ、それぞれのrasたんぱく質が効率よく発現されていることが判明したので、大腸菌を大量に培養し、細胞抽出液を得て、DEAE-Sephacilカラムクロマトおよびゲル濾過法により目的のたんぱく質を+数mgから数+mg得た。これらのたんぱく質はすでに報告されているGDP結合活性,GTPase活性を有することも明らかにした。得られたrasたんぱく質の抗体を得るために、マウスを免疫し、脾臓細胞を取り出し、マウスのミエローマとのハイブリドーマを作製した。スクリーニング、クローニングを行なってc-rasたんぱく質に特異的なモノクローナル抗体産生細胞を10種得た。このうちrasたんぱく質のN末端から12番目がバリンに変異したrasたんぱく質に特異的なモノクローナル抗体をハイブリドーマ培養上清から得、その性質を調べた。抗【ras^(val12)】は【ras^(val12)】に強く結合し、また他の変異rasたんぱく質、正常細胞のrasたんぱく質とも抗原抗体反応を示した。従って、膀胱がん【ras^(val12)】に特異的なモノクローナル抗体を選択することはできなかったが、rasたんぱく質に対するモノクローナル抗体は作製できたので、ras遺伝子が活発に発現しているがんを診断する方法は確立できる見込みである。
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