免疫系における多様性発現機構の分子遺伝学的研究

1988 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 61065004
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 本庶 佑 京都大学, 医学部, 教授 (80090504)
• 研究分担者: 木梨 達雄 京都大学, 医学部, 助手 (30202039) ; 川上 敏明 京都大学, 医学部, 助手 (60143418) ; 川市 正史 京都大学, 医学部, 助教授 (00195041)
• キーワード: ヒト抗体V_H鎖遺伝子 / 骨髄細胞からのリンパ球への分化 / クラススイッチ / IgM^+IgG^+B細胞 / IL-2 / IL-2R / トランスジュニックマウス / NK細胞

研究概要

(1)ヒトV_H遺伝子の構成。ヒトV_H遺伝子群の3'領域150kbをDNA断片として連結し、V_H-v_1がD領域からの上流20kbに存在する最も近いV_H遺伝子であることを証明した。コスミドライブラリーより3000kbに及ぶV_Hを含むDNA断片を単離した。(2)B細胞へのin vitroおける分化。IL-3依存骨髄前駆体細胞をin vitroで骨髄ストローマ細胞と同時培養したところ、B細胞への分化と同時に、ミエロイド系細胞への分化がおこることを明らかにした。既ちこの前駆体細胞はまだ運命づけが起こっていない多分化能を有する細胞であり、この系においてB細胞系への運命づけの仕組を明らかにすることが可能となった。この分化の中間段階に存在するIL-4、GMCSF、IL-5等に依存して増殖する細胞株を確立し、その解析を行った。(3)クラススイッチのメカニズム。ヒト白血球細胞株で、IgM及びIgGを同時に表現する細胞株を確立した。この細胞は、14番抗体H鎖遺伝子を一組のみ持つ細胞であり、この細胞からのcDNAを単離して解析した結果、V領域はIgM、IgGともに共通であることが明らかになり、以前から我々が提唱しているIgM^+IgG^+細胞の存在を確定した。(4)IL-2、IL-2レセプターの機能。IL-2レセプターL鎖遺伝子とIL-2遺伝子をネズミ受精卵に導入し、恒常的にIL-2およびIL-2レセプターを発現する動物を作成した。この動物は、正常では殆んど見られないHK細胞(LGL)で、Thy^+、CO3^-の細胞が脾臓細胞の16%にも増殖した。このネズミは、HK活性の上昇により起こる強い肺炎により、4週間以内に全て死亡した。予想外な知見として、このネズミでは2週から3週に至る間に、小脳にプルキニエ細胞の著しい喪失がおこり、これが原因と思われる歩行障害をきたした。in vitroの実験から、正常Tリンパ球の増殖因子と考えられたIL-2は、in vitroの実験ではNK細胞を増殖させる因子であることが判明した。

研究成果

• [文献書誌] Y.Sinkai: Immunogenetics. 27. 288-292 (1988)
• [文献書誌] P.Sideras: Immuno1.Rev.102. 182-212 (1988)
• [文献書誌] S.Q.Zong: Immunology Letters. 17. 329-334 (1988)
• [文献書誌] M.Okazaki: Mol.Biol.Med.5. 15-22 (1988)
• [文献書誌] F.Matsuda: EMBO J.7. 1047-1051 (1988)
• [文献書誌] T.Nosaka: J.Clin.Invest.81. 1824-1828 (1988)
• [文献書誌] H.Miwa: Jpn.J.Cncer Res.79. 484-490 (1988)
• [文献書誌] H.Ohno: Cancer Research. 48. 4959-4963 (1988)
• [文献書誌] Y.Yaoita: J.Biochemistry. 104. 337-343 (1988)
• [文献書誌] K.Motomura: Geneomics. 2. 180-184 (1988)
• [文献書誌] T.Honjo: Immunoglobulin Genes.
• [文献書誌] S.Takeda: Growth Factors. 1. 59-66
• [文献書誌] H.Enokihara: Immunol.Letter. 18. 73-76 (1988)
• [文献書誌] M.Takahashi: Genomics. 4. 47-52 (1988)
• [文献書誌] K.W.Beagley: J.Immunol.
• [文献書誌] T.Nosaka: J.Clin.Im.
• [文献書誌] S.Ueda: J.Mol.Biol.
• [文献書誌] A.Rosen: In Vitro Immunization in Hyridoma Technology. 311-317
• [文献書誌] J.Fujita: J.Cellular Physiology. 134. 78-84 (1988)
• [文献書誌] M.Maeda: Immunol.Letters.
• [文献書誌] Y.Kanai: Immunol.Letters. 19. 15-20 (1988)
• [文献書誌] T.Kinashi: International Immunology.
• [文献書誌] T.Sato: Biochemical and Biophysical Research Communications. 154. 265-271 (1988)
• [文献書誌] Y.Saito: J.Exp.Med.168. 1563-1572 (1988)
• [文献書誌] M.Nishi: UCLA Symposia.
• [文献書誌] N.Kondo: Immunol.Letters. 19. 299-308 (1988)
• [文献書誌] T.Mizuta: Growth Factors. 1. 51-57 (1988)
• [文献書誌] S.Doi: Blood. 70. 1619-1623 (1988)
• [文献書誌] N.Tominaga: British Journal of Haematology. 69. 213-218 (1988)
• [文献書誌] S.Mita: Proc.Natl.Acad.Sci.USA.
• [文献書誌] H.Kanamori: Immunol.Letters.
• [文献書誌] K.Kuze: Nucleic Acids Research. 17. 807 (1988)
• [文献書誌] Y.Ishida: International Immunology.
• [文献書誌] Y.Ishida: Hamburg Symposium Book.
• [文献書誌] T.Honjo: Handbook of Experimental Pharmacology.
• [文献書誌] T.Noma: J.Exp.Med.