研究概要 |
本年度において、我々はプロトオンコジンの構造的特徴の解明とそれらの腫瘍における活性化機構、新しいプロトオンコジンの発見、さらに単細胞真核生物におけるプロトオンコジンの役割、に重点を置いて研究した。 1.ヒト腫瘍におけるがん遺伝子の活性化 種々のプローブによる検索から、ヒト脳腫瘍におけるEGF受容体遺伝子(c-erb B)の部分的欠失変異による活性化の例を見出した。すなわち、多形膠芽腫の複数例において、c-erbB遺伝子はEGF結合ドメイン内部に短い欠失を生じた上で増幅していることが明らかにされた。この変異c-erbB遺伝子はEGFなしにテロシンキナーゼ活性を構成的に発現する異常なEGF受容体を合成する。これはプロトオンコジンの質的・量的な二重の活性化という点でv-erbBの例とよく一致する。 2.チロシンキナーゼ型遺伝子の構造解析 ヒトおよびトリのc-ros-l遺伝子の単離と構造解析をおこない、それが受容体型チロシンキナーゼであること、および細胞外ドメインの除去と活性化との密接な関係を明らかにした。さらに、まだ報告されていない新しいチロシンキナーゼ(c-ros-2)を見出し、ヒト染色体13番に位置付けた。この遺伝子のCDNAクローニングと予備的解析から、c-ros-2もまた細胞外ドメインとトランスメンブランドメインをもつ受容体型であることが明らかとなった。 3.分裂酵母のras関連遺伝子の解析 分裂酵母のras【1^-】株と同様の表現型を示す変異株を検索し、ral1,ral2,ral3遺伝子を同定した。相補性試験から、ral2はras1の上流に位置することが示唆された。
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