研究概要 |
本研究は、特異的な構造と進化により注目されている免疫系多重遺伝子族を標識として人類の起源・進化を分子遺伝学の立場から解明することを目的としている。本年度は以下の成果を得た。(1)免疫グロブリンCh遺伝子群のうちCeとCα遺伝子を、チンパンジーならびにゴリラにつきクローニングし、塩基配列の決定による詳細な解析を完了した。この結果とすでに得られているヒトでの結果との比較により、CeとCα遺伝子はヒトへの進化の途上、重複・欠失が繰り返し生じていることが判明した。そこでさらにアジア産類人猿(オランウータンとテナガザル)ならびに他の旧世界ザルについても解析を進め、これらの遺伝子群の分子進化から推定される高等霊長類の系統樹モデルを作成した。(2)ニホンザルを材料にして、主要組織適合性複合体(MHC)クラス【III】(複体)のBFについてタンパクおよび遺伝子レベルから解析した。BFはアガロースゲル電気泳動法によるとヒトでは顕著な多型を示すのに対し、ニホンザルでは単一型のみを示すことが明らかになった。またSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、ニホンザルのBFは分子量の異なる二種類が存在することがわかった。遺伝子重複を示唆するものなので、サザン法によるBF遺伝子の数について分析中である。(3)ニホンザルに近縁のカニクイザルを用いた体細胞遺伝学的研究では、マウスFM3A細胞(チミジル酸合成酵素欠損株【TS^-】)とカニクイザル腎細胞との細胞融合により、カニクイザル田来染色体を3〜11本保有する雑種細胞20クローンを樹立した。これによりすでにTS座位をもつ染色体を決定した。また、MHC領域を坦うヒトNo.6染色体に対応するカニクイザルNo.2染色体の詳細な遺伝子地図作成を始めた。(4)集団レベルの研究では、BF,C2,C4,C6,C7,の5種の多型性補体タンパクを日本人、韓国・中国などの近隣集団につき等電点分画法により調べ、変異型対立遺伝子の分布を明らかにした。
|